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例えば参謀
すぐに改心する悪役、地雷なのよね。
綿あめみたいなベッドに身を埋めながら、私は自分の性癖に正直になってみた。
もちろん例外はあるんだけど。簡単に悔い改めるなら、最初から悪の道に進むなよって思っちゃう。闇堕ちした理由とか、悪人になってまで守りたいものがあったんじゃないんかい。享楽的な悪役だって、それなりに覚悟してチャラついてるから格好いいんだぞ。
そういうことを考えて、私は改めてラミアの役をまっとうしようと誓った。よくある転生ものって、転生者がバッドエンドを回避しようと頑張る話が多いけど。この『白夜妖戦記』、まだ完結する兆しもなかったからラミアも死んでないんだよね。
戦いに行って主人公たちと対面して、「やられた〜」ってなることは結構あるんだけど、長寿アニメの敵役みたいに懲りずに復活できる。だからラミアに関してはそのままで大丈夫。……ただ、推しがなぁ。
そう、私の脳内で絶賛物議を醸し中の『じゃあ代わってみます?』なんだけど。私が感想で言及した推しって、ラミアじゃない。彼女のことも好きとはいえ、魔王城の床に倒れたのは別のキャラなんだよ。
代わってみます? って文言だったくせに、今の私は推しじゃなくてラミアになっている。ラミアとして、推しの立場を代わってあげればいいのかな?
……う〜ん、分からん。
180度寝返りを打つと、部屋の広さを錯覚するくらい大きな姿見が目に入る。小説のラミアは自己肯定感が高かったから、ふいに自分が鏡に映っても平気だったんだろうな、羨ましい。
宝石で縁取られた姿見をじっと見つめると、強気そうなつり目の美少女と視線が合った。目尻の睫毛がぴんと尖って、鼻と口は小さめ。紫色のおかっぱ髪に、瞳は金色と、カラーリングはずばり魔族といった具合。
魔王の奥さんってこんな見た目だったのかなぁ。イエローオパールのような綺麗な瞳は、お父様譲りだと思うんだけど。
ラミアの年齢は不詳なものの、人間に例えるなら16才くらいに見える。どこかしら幼さが残っているけど、あと数年もしたらもの凄い美女になりそう。
このハイスペック……と魔族の力も、使いこなせるように頑張らないと。推しの不幸展開はまだまだ先のことだし、今はパワーアップする方を優先したい。
「おはようございます、ラミア様」
おそらくは作者の影響で、コンコン、と日本式のノックがして、外から呼びかけられた。
誰だろう? 少なくともシャウラの声じゃない。
ぼふんぼふん、とベッドの海をかき分けてから、私は部屋の床に降り立った。体が馴染んだのか、昨日よりも足が冷たくない気がする。
魔王城に太陽はなくて、窓の外には昨日と変わらない月がかかる。でも一応は朝なんだろうな、と私は足を軽やかに進め、扉をほんの少し開けてみた。
「おはよう」
と優雅に取り繕ってみたけど、内心はハラハラしている。誰、この人!? 小説内の描写とすり合わせる人物当てゲームが始まっちゃうわけ?
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