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些末な私
人様に紹介するほどの身の上ではないけれど、何かを語らなくては物語は始まらないらしい。
名前とか年齢とか職業とか。しかし自分でもあまり興味のないことだし、きっと追々出てくると思う……ので、ここは先人の言葉に従ってみたい。
『何が好きかで自分を語るべし』
ということで、私の好きなもの。
マンガ、小説、アニメ、舞台、その他諸々多種多様なエンターテイメントに出てくる、
『敵役の男キャラ』。
格好いいよね。愛してる。敵ポジってだけでどうしてあんなに格好いいんだろう。
幼稚園での初恋が子ども向けアニメの敵幹部だったせいで、私の虚構の恋愛遍歴は、そりゃあ悪い男たちで彩られた。
もうずっと、学生時代も、社会人になってからも。創作物には魅力的な(ただし三次元にいたら御免被りたいような)悪い男たちがひしめいていて、私は彼らと彼らが出てくる物語に夢中になった。
某Web小説サイトに掲載されていた『白夜妖戦記』もその一つ。
人間vs魔族を主軸にした、まぁ大筋はよくある長編ファンタジー作品なんだけれど、なんといっても敵役である魔族サイドが最高だった。
キャラが立ってて感情豊かで、敵ながら個々の見せ場的なエピソードもある。そのせいで連載はやたら長くて500話超えてもまだ未完結! 感想欄では展開を急がせる声がたま〜に沸いてしまったりするものの、その平等な描写は私の性癖に深々と刺さった。
少なくとも、私のような敵役フェチには堪らなく嬉しかったのだ。
更新がある昼休みには【次ページへ】を求めてリロードしまくったし、その最新話が敵幹部の会議シーンだった暁には会社の給湯室で天を仰いだ。
すごい! みんな生き生きと悪役してる!
生き生きと主人公たちに策を練って……え。
「……連載初期の頃から大好きで応援しています。
名前はネタバレ防止で伏せますが、魔族側のあの人が最推しで。だからこそ、最新話の展開は悲しかったです。
代われるなら代わってあげたい。……っと」
その日の夜。
私は初めて作品に感想を送った。
誤字のないよう読み直してから、ポチ、と投稿ボタンを押した。午後の仕事でさすがに涙は止まったけれど、机の上ではギラギラした酎ハイ缶のファッションショー。優勝は赤いドレスのコークハイです、おめでとうございます。
ふざけてなきゃやってらんないよ、と心の中で悪態吐きつつ、私は作品ページの感想欄を確認した。ちゃんと反映されている自分の感想。botの存在を疑いたくなるような、瞬時にぶら下がった返信。
『じゃあ代わってみます?』
「……へ?」
酔ったせいで幻覚を見ているのか。いや、やっぱり推しの死が相当堪えて、大変だ、目眩までしてきて、今倒れたらお酒が理由になってしまうわけ?
私はリビングの床に倒れ込んだ。閉じられていく重い瞼に抗って、抗って。昏倒する間際に思ったのは、私の推しもこんな感じで魔王城の床に伏したのかな、だった。
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