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順調に大阪へ向かっていたら、突然携帯がバイブ音を奏でる。
この電話は樹々兄からのモーニングコールだ!
通話ボタンをタップしようとしたら、後部座席から羅々のドスの効いた声で
静止させられた。
「お前は家で惰眠を貪っている。だからまだ夢の中だ。良いな?」
「う……うす」
電話に出るとポロリとボロを出すであろう、私の対策か。
クッ……折角の樹々兄からの電話なのに、出れない悲しみ。
恨めしい気持ちで携帯を握りしめていれば、暫くコールしていた携帯は静かに鳴り止んだ。
「そうガッカリすんなって。もうすぐ樹々に会えんだろ?」
「そ……そうっすよね。」
愛島さんありがとう。少し心浮上がした。
そうだよ、もうすぐあの美しいご尊顔が拝めるのだ。
そう考えれば、残念な気持ちも少しは軽くなった。
「まぁ、とは言ってもラーメンのイベントの手伝いが終わった後、
こっそり覗くだけだがな」
「お触り出来ない悲しみィ-!」
「胡桃、事故る。奇声上げんな」
羅々の言葉に思わず両手で顔を覆い嘆きの雄叫びを上げる。
今度は愛島さんのフォローも無しだ。
急募!優しさ!そんな事を考えながら心の中で涙した……。
◇◇◇
大阪へ着いた私達は、そのままイベント会場に向かい、車から荷物を下ろす作業をした。設営に関しては、大将の弟さんが前日からイベントに参加されているので、ほぼする事は無い状態だった。
「遠路はるばる、すまねーな。宜しくな!」
大将に良く似た、気の良い弟さんにお世話になりますと挨拶すると、ニッカリ笑って挨拶をしてくれた。
イベント会場は芝の広がる大きな広場で、でかいオブジェが聳え立っている。
昔、此処で大きな博覧会が催されたらしく、その記念のオブジェらしい……
ラスボス感が凄いな。
そして、此処はラーメン天国か?あ、間違いないわ。イベントだもの。
誰もが知っている有名店が勢揃いしている。そんな強豪揃いの中に大将のお店も参加するのだから、大将も凄い人だったのか。先程から有名店の店主であろう方々が大将に挨拶をしに来られていた。
「ホラよ」
荷下ろし作業が終わって一息吐いていたら、羅々が横からコーヒーを差し出してくれた。大将の弟さんからの差し入れらしい。アリガトウゴザイマス。
「樹々は向こうエリアにある、ショッピングモールの中でイベントしているみたいだな。さっき見たイベントのポスターに載ってたぜ」
「なんと!近いけれど微妙に遠い距離!絶望!」
「近いとマズいから、丁度良い距離なんだよ。」
羅々はコツリと私の頭を小突き、屋台の方へ戻っていった。
「まぁね……無理言って連れて来てもらってるんだから、流石にこれ以上我儘は言わないよ……」
私は、缶コーヒーを一気に飲み干して、屋台に向かって歩き出した。
◇◇◇
「ん?どういう状況?」
開店前なのに、既に長蛇の列が出来ていた。
まぁ、有名店なのだから当然といえば当然なのだが、客層がやたら若い女子ばかりなんですが?
「女子高生の間に熱烈なラーメンブーム到来?」
小首を傾げながら呟けば、何処からか現れた豪屋さんが「あれは愛島の客引きの賜物だ」と呟いた。ああ、そんな気がしてた。知ってた。知ってた。
「シャンパンタワーならぬ、ラーメンタワーをおっ立てそうで怖いな。」
「コールは任せた」
何処からか現れた愛島さんの呟きに、豪屋さんが大きな溜息を吐く。
豪屋さん、何気に苦労キャラなのかもしれない。
イベントが始まると、女子高生対ラーメン命軍団の戦いが始まった。
中々の地獄絵図である。
そんな中、私はひたすらネギとチャーシューとにらめっこしていた。
「スープが切れたんで、今日の営業は終わりだ!お疲れさん!」
大将のその言葉で我に返った。無我の境地を極めかけてたわ。
気が付くと、すっかり日が落ちていた。
「お疲れさん、疲れただろう?助かったぜ。
片付けるのに少し時間がかかるから、今のうちに覗いてきたらどうだ?
本来の目的でもあるんだろ?」
大将が親指を立てながら、ニッと微笑む。
私は大将の親指を握りしめ「大将大好きー!と」叫んだ。
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