ホストとケーキ

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ホテルの路地裏に連れて来られた私は、数人の女の子達と向かい合っていた。 因みに、私の背後は行き止まりの壁だ。 あ、積んだわ。 仕方が無いので、相手の出方を黙って待つ事にした。 「あんた、愛島君と、どういう関係?」 「何であんたみたいなのが、愛島さんとデートしてんのよ!」 おっと!何てテンプレな台詞だ。 なるほど…この女の子達は、愛島さん狙いなのかぁ……。 一緒にいたから「気にいらねー、焼き入れてやっぞ?」 みたいな感じなのかな?何て迷惑な……。 「ちょっと、黙ってないで、何とか言いなさいよ!」 「えーヤダ、メンドクサイ……。」 私は、この後の展開が手に取るように見え、ウンザリとした顔を向けた。 「そもそも、私が愛島さんとどんな関係だろうと、あなた達には関係ないじゃないですか?そういうあなた達こそ、愛島さんの何ですか? 友達や、彼女だとしたら、こんな事はしませんよね? 愛島さんが仲良くする女の子は全て排除するとか、訳の分からない事するつもりですか?愛島さんに嫌われたいんですか?」 正論を突きつけてやれば、目の前の女の顔色が真っ赤に染まる どうやら図星だったようだ……。 「―っ調子に乗らないでよ!」 「愛島君はみんなのアイドルなのっ!」 パシーーーーーン 目の前で、ギャンギャン騒いでいた女の子が、私の顔を平手で叩く 私は頬を押さえ痛みに耐えた。 「……痛いなぁ…………叩かれる筋合い無いんですけど?」 「フン!あんたが生意気だからよ」 「へぇ……生意気だったら…叩いていいんだ?」 私は口角を上げニヤリと微笑む。 私の変化に気付いた女の子達は、顔色を変え一歩下がりながら言葉を続けた。 「そ…そうよ!これに懲りたら愛島君には近づかない事ね!」 「そ…そうよ。今日はこれくらいにしといてあげるわよ!」 「あら、それはありがとう……………何て言うと思う?」 「え?」 「今度は俺のターン!ってね」 私の雰囲気が変わった事に気づき、悲鳴を上げて逃げ出す女達に、 次々と廻し蹴りを食らわせる。 きゃぁ!と悲鳴を上げながら倒れていく様を冷めた目で見降ろした。 「さて、最後はあんたね。」 「ひ……ごめ…………」 最後まで、小賢しく逃げまくっていた私を叩いた女の胸倉を掴み、 ニッコリと微笑んだ。 「あんたには、蹴りだけじゃすまさないわよ? 私の頬を叩いたんだもんねー。今度は私のターンよね? 生意気だったら叩いていいんだよねー?」 さっきまで強気だった女が、涙を流しながら許しを請う。 何て弱くて無様なのかな? 勝てない喧嘩は売らなきゃいいのにねぇ………うふふ。 「ウフフ。許してあーげなーーーーい」 やられたら10倍返しだ! やり返される覚悟も無いのに、手を出すんじゃねーよ。 私は思い切り腕を振り上げ、女の顔を目掛けて振り下ろす パシリ その手を掴むヤツがいた。 「チッ!邪魔すんな!」 舌打ちしつつ振り向けば、そこにいたのは愛島さんだった。 「愛島さん!」 「だめだ。」 愛島さんの言葉を聞き、舌打ちしつつ腕の力を抜く……。 女はその隙に私の手から逃れ、愛島さんの胸に縋りついた。 「おっと……」 女の勢いに負け、愛島さんの体が一瞬大きく揺れる 倒れていた女達も、わらわらと愛島さんに纏わりついた。 「あ…愛島くん!あの女が私を…私達を!」 「その女酷いのよ!何もしていないのに、勝手に暴力ふるって!」 口々にそんな言葉が女達から零れる。 何もしていないなら、そもそも私はこんな所にいないし…… 頬を叩かれる事も無いのだけれど……。 頭に上った血がすうーっと引くのがわかる。 何かどうでも良くなった気分だ。 愛島さんは女達に、心配気な顔を向けた。 「それは、大変だったね。大丈夫?…………何て言うと思ったか?」 「え?」 愛島さんの雰囲気が変わった事に気づき、女達が大きく動揺する。 ああー愛島さん、オコですね。 口調が完璧にアレですね。 「お前等、それくらいで済んで良かったなぁ…… 俺が止めなきゃ、全員半殺しにされてたぞ?」 「だ……誰に?」 怯えつつも、女がその言葉に反応する。 愛島さんは、冷たい目線を女達に向けながら言葉を続けた。 「お前しらねーの?お前等が喧嘩売った、この女。 『胡桃は小粒でピリリと辛い』って異名があるくらい…強い女だぜ?」 「胡桃?……東高の水田胡桃!」 女達はその名前に聞き覚えがあるようで、一気に顔を青褪めさせる。 「ごめんなさい!」と口々に叫びながら、バタバタと慌てて逃げていった。 「10倍返し……しそこねた……。」 「拗ねるな。」 愛島さんが、小さく溜息を吐き やり返しが出来ず拗ねている、私の頭にぽすんと手を置いた。 「まぁ…気持ち分かるけどな、姫塚が心配するだろう」 「そうだね。停学とかになったら、樹々兄を心配させちゃう。」 「だろ?」 「でも……勝てない癖に、つるんで喧嘩売る馬鹿にはやり返したい。」 「ああ………そうだな。でも、俺も姫塚も、胡桃の強さも知ってるし、 認めている」 「………うん。」 「だから、くだらねー事で、お前の強さを安売りするな。 使うなら、姫塚の為に使え。お前は王子を守る姫なんだろう?」 「うん。」 私はただ守られるだけの姫じゃ嫌で、 頑張って頑張って……強くなったんだ。 この力は王子を守るため…そう、樹々兄を守る為にあるんだ……。 「ごめん…。もう大丈夫」 「そうか。それより頬大丈夫か?」 愛島さんが、叩かれた頬にそっと触れる。 ジンジンとまだ頬が疼いて痛む。少し腫れてきたのかもしれない。 「カッコイイ姫には、ご褒美がいるよな」 愛島さんはそう呟いて、私の頬にそっとキスをした。 「ぎゃーーーー!全然ご褒美にならない、ならない!」 「ハハハハハ。さて、帰るか」 愛島さんから離れ、キスされた頬を押さえる。 愛島さんは私の手を握り、歩き出した。
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