恋敵とお留守番

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「……顔は、大丈夫か?」 強面の高身長の筋肉マンが、頭の上からこんにちわ状態で いきなり失礼なワードを呟いた。 「顔っ?この通り、どこから見ても可愛いですけれどっ?」 「……スマン、強く頭をぶつけたようだな。」 「頭は通常運転!」 この男、厳ついフェイスの癖に、ボケの達人か! クッ……どのワードも零すことなく、突っ込みを入れてしまう自分を呪いたい。ふるふると震えつつ、一人反省会をしていたら、ポスンと頭の上に手を置かれた。 「今日は一人か?姫塚は一緒じゃないのか?」 「皆、同じこと言うんですね……。まぁ自覚は多分にありますけど。 樹々兄は、今日から占いのお仕事で留守です。悲しくて心が土砂降りです。羅々はどっか出掛けました、行先は一ミリも興味無いです。」 私の言葉を聞き、「ああ……」と思い出したかのように豪屋さんが呟いた。 「……そういえば、今日から関西だったな。」 「何で知ってるの?」 「姫塚から電話で聞いたから……だが?」 「ケッ!自慢か、チクショー!号泣するぞ」 「別に、自慢では無いんだがな。」 樹々兄は、豪屋さんにそんな事までも報告しているのか……。 何?ラブラブ自慢なの?滅びればいいのに!ゴーヤだけ! 私の心の声が盛大に聞こえたのか、豪屋さんが一つ溜息を吐いた。 「言っておくが、俺と愛島は、唯の友人だ。」 「え?樹々兄の何が不満なのっ?振るとかありえないからねっ!」 「……お前は、愛島が好きなんだろう?何故薦める。纏まって欲しいのか?」 「好きというレベルを超えて、最早神?天使の領域かな?ってくらい崇拝してますけど、何か?そんな樹々兄を振る奴がいたら潰す!全力で! あ!でも樹々兄を悲しませるのは嫌だから、どうすれば……。 うん!樹々兄の心変わりをひたすら祈願するべきね! ちょっとお百度参りしてくるわ!」 自己完結して、走り出そうとする私の首根っこをガツリと掴まれ 「ぐえ!」と口から変な言葉が漏れた。 豪屋てめー!一瞬涅槃が見えたぞ! 般若のような形相で振り向けば、呆れ顔の豪屋さんが私の腕を掴んで歩き出した。 「ちょ……誘拐?」 「昼飯……付き合え。まだ食ってねーだろ?美味いラーメン屋だ。」 「え?何で私が憎き恋敵とランチを……美味いラーメンは、魅惑のワードですよね。」 「焼き飯も最高に美味いぞ。」 「兄貴、お供しやす。」 私は欲望に負け、憎き恋敵とランチを食べに行く事にした。 え?デート?違うからね!これは敵情視察。 え?視察になってない? 豪屋さんのテリトリーを探りだね、弱点を探して……。 「着いたぞ」 「え?もう?早くないっ?」 「そうか?10分程歩いたと思ったが?」 え?そんなに時間経ってました? 脳内会議をしながら歩いていたせいか、知らぬ間にお店の前に到着して いたようだった。 昔ながらの中華屋さん。そんなワードが頭に浮かぶ。 長年地域に愛されてきた風格がお店から漂っていた。 これは絶対美味しい店だ!間違いない。 「入るぞ」と呟く豪屋さんの後に続いて、お店に入る。 「いらっしゃーい!」と元気な声が中から聞こえてきた。 カウンターで豪快な笑顔の大将が迎えてくれる。 思わずペコリとお辞儀をした。 豪屋さんは、迷うことなくカウンター席に腰掛け、私に横に座るように椅子を引いてくれた。 「大将、ラーメン二つと焼き飯一つ。」 「あいよ。今日は珍しく女の子連れてるなぁ。彼女か?」 「いや、違います!全く、一ミリも!」 大将の言葉に、思わず全力で手と首を振り返事を返した。 「コイツは友人の幼馴染で、ただの後輩だ。」 「ですです。ハイ。」 豪屋さんの言葉に続き、さらにコクコクと頷いてみせた。 「なーんだ、つまんねぇなー。 ま、待ってろ、今旨いラーメンと焼き飯作ってやるよ。」 カハハと笑いながら、大将が調理にかかる 私は改めて店内をキョロキョロと見渡した。 「そういえば、先日愛島とデートしていたらしいな?」 「何で知ってるんですか?あれはデートじゃないし! 樹々兄のスト……ゴックン」 「なるほど、ストーカーしていたのか」 「ち……違う……よ?たまたま……だよ……」 豪屋さんから目線を逸らしながら小声で呟く。 横から一つ大きな溜息が聞こえた。 「まぁ……いつもの事だから怒りはしねーけどな…… で?今回は大人しく留守番出来そうなのか?」 「人を駄犬みたいに……樹々兄禁断症状で眩暈がしますが……。 密かに長距離トラックをナンパしようとしてたのがバレたようで、 樹々兄に先に釘を刺されました」 「……そうだな。 お前は姫塚案件だけに発揮される、バイタリティーの塊だったな。」 「そんな、褒められても」 「決して褒めてはいねーけどな。」 私達の会話が途切れたタイミングで、美味しそうなラーメンと焼き飯が出来上がった。「昔ながらの中華そば」というワードがとても似合う、絶対美味しい奴、これ。私は箸を両手で挟み、いただきますの言葉を呟いて、その美味しそうな麺を啜り上げた。 「美味しい!うわ!美味しい!」 思わず心の底からその言葉が零れる。 目の前で「おう、ありがとうなー」と満面の笑顔の大将 豪屋さんも「だろ」と呟きラーメンを啜っていた。 半分づずに分けられた焼き飯も、味も食感も抜群で。 今度樹々兄も一緒に連れてきてあげようと、心の底から思った。 「姫塚を連れてきたことは無いからな、今度一緒に来るといい。」 「豪屋さんはエスパー?チョイチョイ人の心を読むよね?」 「そうか?」 私がそれだけ分かりやすいせいだろうか? まぁ、美味しいからいいや 私は一心不乱に食べ続け、スープも最後の一滴まで飲み干した。 「フー、ご馳走様でした!絶対また来ます!常連客の仲間入りさせて下さい」 私の言葉に大将は「おう、待ってるぜ!」と元気な言葉を返してくれた。 居心地の良さまで最高だな! そんな事を考えていたら、携帯がピロリンと鳴る。メールの着信音だ。 ポケットから携帯を取り出しメールを確認すれば、 「大阪に着いたわよ」という、樹々兄からの報告メールだった。 あああ……ラーメンの幸せ指数で樹々兄の事を少し紛らわせていたけれど 会いたい会いたい会いたい……そんな思いが募る。 「……姫塚からメールか?」 「うん、今大阪に着いたって……あいたー-----い!」 「今朝会ったんだろ?」 「うん、でももう会いたい、禁断症状……今すぐ大阪に行きたい……。」 私と豪屋さんの会話を聞いていた大将が「大阪?」と聞き返した。 「そう、大阪。今すぐに、行きたい思いで爆発しそうです。」 「おいおい、そりゃ穏やかじゃねーな?訳ありか? 丁度明日から大阪で食のイベントがあって行くんだが、 良ければ一緒に車に乗せてってやろうか?」 「え?」 「おい」 此処に神が舞い降りた! 満面の笑顔の私と対照的に、豪屋さんが頭を抱えこむ。 私は元気よく立ち上がり「宜しくお願いします!大将!」と声を上げた。
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