ききなれたこえだ

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からん、……からんころん、からん 聞こえてきたのは下駄の音。履き慣れていないのかその音は不規則だ。 見慣れたはずの公園がどこか異世界のように感じられる。今日は年に一度の町内夏祭りの日。いつも駆け回っている広場には屋台が立ち並び、いつになくはしゃぐ子供たち。聞き慣れない太鼓の音は少し恐ろしく感じた。 「何食べたい?」 お母さんは僕にそう言って笑った。その声は少し浮かれているようにも思えた。 見慣れたはずの友達は浴衣を着ていて別人みたい。大人っぽい、だなんて言葉ではまだ幼く、しかし幼稚とも言えない曖昧な姿だ。きっと僕もそんな感じなのだろう。それでも友達はいつもと違う服装を楽しんでいた。その手には買ったばかりと思われるスーパーボールが、屋台ならではの袋に収まった状態で握られていた。 「かき氷食べよ!」 キラキラ光るおもちゃを付けた列を指差しながら友達は僕にそう言った。 「あの腕輪どこで売ってるんだろー」 友人は、欲しいと言わんばかりの視線で僕を見つめる。 「うーん、じゃあ後で探してみようか」 口ではそんな事を言ったが、実の所僕はそのキラキラをあまり欲しいと思えなかった。だって、どうしてこんなに輝いているのか理解できない。今日という日がただでさえ非日常を描いていると言うのに、追い討ちをかけるかのような輝きは目がチカチカしてたまらない。 端的に言うなれば少し怖かったのだ。 未だに鳴り響く太鼓の音。踊る人々。煌びやかな行列に、吊るされた提灯。色とりどりの服を纏った人々の、浮かれたコエ、こえ、声! 嗚呼、目が回りそうだ。 蹲ってしまいたくなる衝動を必死で抑えながら道を歩く。 そんなとき、不意に声が聞こえた。 『痛いっ…』 酷く聞き覚えのあるこえだった。だって、いつもこの公園で聴いてるものだったから。いつでも聞くことのできる音。春夏秋冬365日僕はそのこえを聞いていた。 スッと肩の力が抜けたのを感じた。 改めて耳を澄ませばさらによく聞こえてくる。屋台の近く、踊る人々の周辺や友達の下。それにお母さんの下からも。 『いたいっ!痛い!』 ふっと視線を下にずらせば僕の足元からも聞こえる。 下駄に踏まれて悲鳴を上げた彼らのこえはいつも通りで、なんだか少し安心した。
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