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公園の噂
昼休み、僕はふとチェーン店のハンバーガー屋に立ち寄った。これも昔はなかった店の一つだ。店内には夏休み中らしい小中学生も何人かいる。注文したハンバーガーを食べようとした時、隣席の小学生達の会話が耳に入って来た。
「知ってるか? 二丁目の公園、幽霊が出るんだってよ!」
僕の手が止まった。僕の知る限り、二丁目に公園は一つしかない。昔僕がこの町にいた時、よく田上くんと遊んだ公園だった。少なくとも僕は毎日あの公園に行っていた。
僕がいた頃にはそんな話はなかった筈だ。もっとも、あれから二十年は経っているので、その間にそんな話が出て来ているのかも知れない。
えー、嘘だー、と周りの子供達が声を上げる。しかし言い出した子は引かなかった。
「ホントだって。俺の兄ちゃんも言ってたぞ。……夜になると、小学生くらいの男の子の霊が後ろから『遊ぼう』って声をかけて来るんだ。そんで、振り向いたらあの世に連れてかれるんだって」
怪談話は今も昔も子供達の大好物だ。茶化していた子達も何となく引き込まれている。その子は話を続けた。
「何でもさ、二十年前にあの公園の前で近所の男の子が事故にあって死んだんだって。その子は友達と遊ぶ約束をしてて、それで公園に行く途中で車にはねられたんだって。その約束が忘れられなくて、公園に来た子供を約束した友達だと思って連れてくって言うんだ。兄ちゃんはそう言ってた」
僕は思わず子供達の方を見ていた。二十年前に車にはねられた子供。それは、──田上くんのことじゃないのか。なら、約束した友達というのは。
(僕だ)
そう思った。
確か、あの時田上くんと僕は一緒に遊ぶ約束をしていた。していた筈だ。どういうわけかあの時のことはどこか記憶が曖昧で、よく思い出せない。でも、もし、それが田上くんなら……彼はあの時のまま僕を待っているのだろうか。
昼休みが終わりそうになっているのに気づき、僕は急いでハンバーガーにかぶりついた。味はよくわからなかった。
次の休みの日、僕はふらりと町に出てみた。
僕のいた頃にはなかったそこそこの規模のショッピングセンターは、家族連れや夏休みの子供達が行き交っている。ぶらぶらと店を見て回りながら、僕は何となく自分のことを考えていた。
周りにいるのは、幸せそうな家族や仲の良さそうな友達同士。僕にはなかったものだ。こんな場所にいると、僕の心の奥の方から負の感情が頭をもたげて来る。
──僕には何かが欠けている。
いつの頃からか、そんな想いが僕の中にあった。家族らしい家族もなく、友達らしい友達もほとんどいなかった僕には、人としての何かが欠けているんじゃないか、と。
そんな想いをごまかすためにやたらと人当たりを良くしてみたり、別な土地へ行く度にキャラ変してみたりと色々やってみたけれど、あまり効果があったとは思えなかった。
(約束してよ)
(絶対に迎えに来るって)
両親としたこの約束が守られなかった時から、僕は何かが半端なのだ。
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