かれしになりたい

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かれしになりたい

※二葉と玲のなれそめ話です。 付き合ってるように見えて付き合ってない二人が書きたくて。 「玲先輩、ジャガイモあと幾つ残ってるか憶えてる?」  会社帰りに寄った行きつけのスーパー。買い物カゴを持った職場の後輩、二葉が玲を振り返った。 「んー、この前ポテサラしたじゃん? だからあと2つくらいだった気がする」   キャベツの山の前でどれにしようか選んでいた玲が答える。 「んじゃもう一袋買わなきゃだめですね」 「あとパン粉も少なくなってるから買っとこ」 「あ、しゃぶしゃぶ用の豚肉安い」 「明日はお鍋にする?」 「いいですね。白菜あったし。ビールまだあります?」 「この前通販で頼んだばっかだから、まだ大丈夫」  それから幾つかのお菓子とアイスクリームをカゴに放り込んでレジに向かう。  二人で一緒に使うものを購入するときに使う電子マネーで会計を済ます。それぞれビジネスバッグの奥に折り畳んでいるエコバッグを取り出して買ったものを詰め込む。一袋ずつ手に持って今日向かうのは二葉の家。 「今日は二人揃って定時で上がれてラッキーですねー」 「何か手の込んだの作ろうかなって思えるよな」  中々定時で仕事が終わる日は少ないが、珍しく定時で上がれればスーパーに寄ってもまだ6時過ぎだ。  二葉の家に帰ると二人で並んでキッチンに立ってあれこれ話しながら玲が小麦粉と卵を付けたコロッケに二葉がパン粉を纏わせて揚げる。会社の噂話とか、夕飯食べながら何のテレビ見ようか?とかそんな話をしているとあっという間に出来上がって、 二人が毎週必ず見るお笑い番組の録画を再生しながら夕食を済ます。  軽くビールで乾杯して、 ケラケラ笑ってテレビ見る。  性格は違う二人だが、笑いのポイントはそっくりなのだ。  録画した番組を観終えて、いつも見てるドラマが始まったころ、二葉がコーヒーを淹れてくれる。  取り寄せた甘いお菓子とコーヒーと一緒に楽しんだドラマが中盤に差し掛かった頃、玲がちらりと時計を見るともうすぐ11時半。歩いて10分だから今帰らないと12時過ぎてしまう。 「今から帰るの?最後まで見てけば?」 二葉が眠たそうないつもより幾分低い声で言う。躯の奥に ずん、響くような彼の声が、部屋に満ちた深夜特有のとろりとした空気に柔らかく溶け込んで玲に絡みついたいたけれど。 「最後まで見たいけど、12時過ぎたら明日きついしなぁ。これ録画もしたよな? 続きは土曜日観る」 と玲は言った。明日は担当しているシステムのメンテナンスのために取引先を何件か回らなきゃならないし、合間に新しいシステムの計画書を進めて……と明日のスケジュールが玲の頭の中をくるりとまわる。 「……わかった。送って行きます」  玲の顔を見て、ちいさくため息を吐いた二葉が言う。  女の子じゃないんだから送らなくてもいいって言ってるのに、コンビニに用があるとか、星が見たいからだとか何だかんだ理由を付けて絶対送ってくるので、最近はもう言われるままに送ってもらうようになった。  それにぽつり、ぽつりと話ながら二人で夜道を歩くのは悪くなかった。 「で、この弁当のコロッケはその残り?」 天気がいいので、オフィスの屋上のベンチで同期の川越とランチタイムを過ごしていると、 川越が玲の弁当を覗き込んで尋ねた。 「あぁ。一人で自分の分のコロッケ揚げるほど俺は料理好きじゃないし、弁当作ってくれるような彼女も嫁もいない」 そう言って玲は残り物のコロッケを口に運ぶ。うん。1日経ってもおいしい。 「彼女も嫁もいないの知ってるけど。彼氏? 旦那? はいるじゃん。幸せそうで何より」 ごちそうさまー、と川越は玲の顔の前で手を合わせた。 「彼氏?   旦那? 何言ってんの? 俺男なんだから彼氏とか旦那になる方なんですけど」 「俺とお前の仲で隠すことないだろー」 川越が唇を尖らせる。 「隠す……何を? 」 「は? お前あの川原と付き合ってないの?」 「は? 二葉と? 俺は男であいつも男なんだけど」  人付き合いが苦手な玲が仲良くしている数少ない友人である川越は驚いたように少し目を丸くしてから 「いや、どー見ても付き合ってるだろ。まじで? 俺偏見とかないよ? 他の誰にも言ったりしねぇからホントのこと言ってみ?」 とお気に入りのパン屋で買ってきたというカレーパンをきつく握りしめて川越は尋ねる。 「おい、カレーパン潰れてる……」 「そんなことどうだっていい!」 「よくないだろ」 「いいの! だってお前ら毎日一緒に夕飯食って、土日も一緒に過ごして、クリスマスも一緒だったじゃねーか」  あーあ。カレーパンの端が破れてカレーが溢れてきちゃったよ。玲はポケットから取り出したティッシュでそれを拭ってやる。 「いつもどおり飯食ってたらそういやクリスマスだっただけだし、いつも一緒に飯食ってるのも俺もあいつも自炊派だから一人分作るより二人分作る方が安上がりなだけだし」 「え? やっぱ毎日一緒に飯食ってんの? 俺鎌掛けただけなんだけど」 「は? 何だよ。鎌掛けたって」 「ないわー、ないない。 一緒に暮らしてるわけじゃなけりゃ彼女とだって毎日は飯食わねぇよ」  川越はきちんとセットされた髪が乱れるのに、ぶんぶんと頭を振る。 「んなことねぇだろ……」 とは言ってみたものの確かに過去の彼女達と食事を一緒にするのは土日のどちらかの夕食くらいだけだったと思い至って、続く言葉が出てこない。  二葉が玲の直属の後輩として配属されたばかりの頃は、正反対な二人はぶつかってばかりだったが、互いの本質を分かり合ってからは凹凸がぴたりと嵌まるように相性が良いことがわかった。  忙しくて会社で一緒に夕食を摂ることが数週間続くと、何となく一緒に夕食を摂ることが自然になった。忙しい時期が過ぎたら二人とも自炊派なこともあって、二葉の家で食事をすることが当たり前になった。その習慣は二葉が玲の元から独立して配属が変わっても変わらなくて。  だって、定時の少し前。二葉は必ず「今日何食べます?」ってラインしてくるんだ。特に予定もないし、一人で食べるよりあいつと食べる方がずっと楽しいから断る理由もなかった。  いつの間にか二人で使う電子マネーのアカウントが出来て、気が付けば土日も一緒に一緒にごはん食べたり、ゲームしたり、映画見たり、気になるカフェに行ってみたり、近所の公園散歩したり。 「ま、お前がいいんなら別に俺が何か言うことじゃないけどさ、あいつに彼女出来たりしたらさすがに毎日一緒に飯食うわけにもいかないじゃん? 付き合ってないならあんまりべったりしすぎるのも考えものだと思うよ?」  川越の声と昼休み終了五分前にセットしてあるスマホのアラームが、ぼんやりと玲の耳に届いた。
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