幸せの香り

9/9
前へ
/9ページ
次へ
「心春ちゃん」 突然名前を呼ばれ振り返ると、心春の視界がピンクに染まり、優しい香りに包まれた。 「誕生日おめでとう」 の声と共に、風に乗って桜の花びらが紙吹雪のように心春に降ってきた。 ――え? 心春が呆然と立ち尽くしていると、ランジェリーの彼が近付いてきた。 「心春ちゃん」 「え? 何で私の名前……。あーーっ!!」 彼が指先で摘まんでいるそれを見て、心春は声を上げた。 「探してただろ?」 「はい、めちゃくちゃ探してました」 「俺にくれたパンの袋に入ってたよ」 「あぁ、そうだったんだ」 「梅元心春(うめもとこはる)」 彼がスタンプカードの裏面を読み上げた。 「あ、そういうことか」と心春は理解した。 「誕生日当日はスタンプ五倍押し……太っ腹なパン屋だな」と言って笑ってから彼が尋ねる。 「心春ちゃん、昨日誕生日だったんじゃない?」 「――当たりです」 「心春ちゃんって、スタンプカードにちゃんと名前書くタイプなんだね」 「あぁ……はい」 「俺そういう子、すげー好き」 【完】
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加