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「七月の終わりだから…一か月半前かな。弟を連れて山に行ったの。そしたら滑落してそのまま死んじゃって…。まだ四十九日も終わってないんだ。
私が連れて行かなければ弟は…良介は死なずに済んだのに……。それで衝動的に自殺しようとしたんだ。踏切に飛び込んで。そこを緑川店長に助けられたの」
私の告白に紫は愕然としていた。
「そ、そんなことがあったの………。知らなかった……。どうして言って…あっ…」
紫が言いかけて止めた。自分の言葉に驚いたようだ。私は涙をこぼしながら笑いかける。
「『なんで言わなかったの?』って?そんなこと友達に言えないよ。弟を死なせた人でなしだって。自殺するほど悩んでたって。重すぎるもん。友達にそんな部分を見せたくなかったの。私も紫と対等でいたかったの。ごめんね」
「そんなの、花崎さんのせいじゃないじゃん!不幸な事故だよ!花崎さんは悪くない!」
「ありがと。だったら今回の紫のことだって紫は悪くないでしょ?悪いのはあいつ。紫は被害者なんだよ」
そう言いながら私は紫を抱きしめた。頭のほかに怪我していたらまずいので壊れ物を扱うようにそっと優しく。
「ごめんね。もっと早くそのことを言ってれば紫も相談できたかもね。元カレに悩まされてるって。友達の前でカッコつけたかったんだ。紫は私のこと立派な人間だって思ってるみたいだけど私はそんな立派な人間じゃないよ。
むしろ紫のほうがすごいよ。優しいし。かわいいし。気品があるし。胸大きいし。
私は紫と友達でいられてすごくうれしい。すごく誇らしい」
「そんな……私、そんな…すごい人じゃないよ………。誰よ、その人」
「今私が抱きしめてる人~♪」
私と紫はお互いに笑い出した。二人とも目から涙がこぼれていた。私は紫からそっと離れた。
「私も紫もそんなにすごい人じゃなかったんだよ。お互い相手の事はすごい人と思ってるけど。私のそばにいるのがつらいなら私から離れてもいい。紫の自由だよ。でも……私は紫のことをすごいと思ってるから。あなたのことを尊敬している人がいるのを忘れないでね」
あの時。自殺しようとした私に緑川はあまり親身に寄り添ってくれなかった。オトギリソウの話をして月並みなことを言っただけだ。自殺しようとするのを積極的に止めようとしなかった。あれが私には逆にうれしかったのだ。私の自由にしていいんだよと言われたみたいで。
だから紫にも友達でいよう!と強制はせず、紫を励ますだけにとどめた。私は紫と友達でいたいけど紫が苦しくなるのなら仕方がない。
今だけ勇気をください、店長。突き放す勇気を。
私は心の中でつぶやいた。
「じゃあね、紫」
そう言って私は振り向いてドアの方に向かった。紫とここでお別れになるかもしれないと思うと帰りたくなかったし、どんな顔をしているか振り返りたかったけどグッと我慢した。そうして私は病室を後にした。
紫の両親に別れを告げ、病院を出ると夕方まで降ると言っていた雨は少し小降りになっていた。不安な気持ちでいっぱいだった私は傘を広げ、ため息をつきながらバス停へと歩いていくのだった。
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