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えーと…今の言葉は紫と友達でいるべきだって言いたかったのかな?さっきの言葉には何というか独特の重みがあった。過去に何かそう思わされるようなことがあったんだろうか。
ずずっとカフェラテを啜っているとふいにドアベルが鳴った。
カランカラン。
あれ?表の扉には「CLOSED」の文字がかかっているはずだが……誰だろうか。振り返ると入口に人が立っていた。ベージュのスカートに明るい茶色のトップスを着ている。黒のスカートと白いブラウスを着ている私と似たような落ち着いたコーデだ。長い黒髪を伸ばし、口元のほくろが幼く見える顔を妙に艶めかしくさせていた。三日前に見た顔だ。
「花崎さん………」
「紫………」
三日前の病室と逆の立場になってしまった構図だ。私は思わず身構えてしまう。
「あの……花崎さんのアパートがどこか、実は知らなくて…それでもしかしたらここにいるかもと思ってきたの。ドアには閉店って書いてあったけど窓から花崎さんの姿が見えたから、それで……」
「あ、すみません。今日は定休日でしてお店は開いて……って、あの……あれ?」
ドアベルの音が聞こえたのだろう、緑川が店に顔を出した。相変わらず空気の読めない人だ。まぁ今のは仕方ないが。とりあえず黙っただけ及第点(?)である。私は紫の方に集中する。
「あの!花崎さん!」
「…うん」
「私ね、本当にそんなすごい人じゃないんだよ?ミスコンだってまぐれだと思ってるし」
「…うん」
「自分のことしっかりできないから迷惑かけちゃうかもしれないの」
「…うん」
「…そんな私でも花崎さんの友達でいていいの?」
「…うん。そんな紫がいいの」
「……私も花崎さんと、友達でいたい」
涙をこらえるように紫がそうつぶやいた時、私は我慢できなかった。
「紫!!」
ガバッと私は紫に抱きついた。
「ごめん…ごめんね、花崎さん。病院でひどいこと言っちゃって」
「いいんだよ、紫。私と…また友達になってくれるの?」
「うん。あの時花崎さんに、私、ひどいこと言ってしまって…本当に思ってたこと、だったんだけど、それでも、私のことが大事だって、言ってくれて。私自身を、好きだって、言ってくれて。花崎さんも、自分の嫌だった、ことを話してくれて。私のことを思って…友達をやめようと、したんでしょう?私のこと、そこまで考えて、くれているのがすごく…すごくうれしかった!ありが、とう!ありがとぉ…」
泣いているせいで途切れ途切れだし、鼻声なので全部は聞き取れなかった。それでもこの涙は本物だとわかるから。私にはそれで充分だった。
「私も、知らず知らずに、紫を苦しめてたかと思うと、嫌だったから、紫が嫌なら、友達でいるの、やめよう、って思ってたけど、それでも…すごい怖かったんだよぉぉ!紫と離れるのがぁ!もう友達で、いられなくなったらどうしようってぇぇ…ありがとぉぉ、紫ぃぃ…」
私たちは入口で抱き合ったまま崩れ落ちた。お互い不安だったんだ。当たり前だ。そのまましばらく私たちは泣いていた。その涙はうれし涙か、不安からきた涙か。一つ言えるのは苦しくない涙だということだった。
一方そのころ。入口で泣き崩れる女性二人を前にしていた緑川はというと。
(えぇ…俺…これどうすりゃいいの?引っ込んだ方がいいのかな?いやでも個人的にもう少し見ていたい感あるし……うーん……)
などと胸中で独り言をつぶやきながら所在なさげに立っているのだった。
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