第6章 ムラサキ(5)

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第6章 ムラサキ(5)

**************  ん?どういうこと?確かに紫の名前は『紫(むらさき)』と書くが…。いまいちよくわからない。紫も同じくわからないようで少し首をかしげている。 「紫色がなぜ紫色というのかお二人は知っていますか?」  また緑川がよくわからないことを言い出した。紫色は紫色だからそう言うのだろう? 「語源ってことですか?」  紫がそう聞くと緑川はうなずいた。 「えぇ。そうです。何か知っていますか?」 「いえ…」 「私も知らないです」  私と紫はそう答えた。そんなの考えたこともなかった。 「紫色というのはムラサキという植物の根からその色の染料が得られたのでそう呼ばれるようになったんですよ」 「…え?逆じゃないんですか?紫色の染料がとれるからムラサキってその植物に名前が付いたんじゃないんですか?」 「いいえ、違います。植物のムラサキの方が先に名前を付けられたんです。色の名前は植物からつけられたものです」 「そうなんですか!?へー…知らなかった…」    紫の言葉に私もうなずいた。まさか紫色の語源が植物だったとは…。 「では庭に行きましょうか」  いつもの流れだ。よしきた、と私は椅子から立とうとした。 「…と言いたいところですが」  うん? 「実はこのムラサキという植物、大変貴重なものでして…野外ではほとんど見られませんし、栽培も非常に困難なようです。うちの庭にもないんですよ。なので今日は写真で我慢してください」  初めてのパターンだ。つくづく読めない。なんかちょっと恥ずかしい…。そんな私にお構いなく、緑川はスマホを取り出して操作していた。 「ほら、これがムラサキの花です」  そう言って彼が差し出してきたスマホの画面には……。 「…白色じゃないですか」 「誰もムラサキの花が紫色だなんて言ってないでしょう?」  まぁ確かにそうだけどさ…。なんか騙された気分だ。  画面には白い花が写っていた。五枚の花弁を開いたどこにでもありそうな花だった。 ea3e92bd-b918-4803-909f-8dc61578674e
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