第6章 ムラサキ(5)

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「………よ、よく知ってますね、そんなに」  紫がまだ驚いている(というか若干引いている)顔でおずおずと声をかけた。まぁそりゃそうだろう。私は慣れたから、そんな植物とか歴史があったんだー、で済むが、初めて聞けば植物+歴史+知識量+豹変ぶりで二倍くらいの驚きだ。 「まぁなんとなく興味があったんで。調べていったら面白いなと思って…覚えました」  それで覚えられるもんなのか?相変わらず理解できない…。    一息ついたところで私は思い出す。 「あの、で、なんでこんな話になったんでしたっけ?」    今回話が長すぎてスタートがどこだったか忘れてしまった。確か紫がムラサキだ、と緑川が言ったところから始まったか。 「あぁ、すみません。そうですね。えーと…つまりこのように紫色というのは昔から高貴な色とされてきました。紫さんも同じように価値があると思いますよ?」  …まさかこの人これ言いたいがためだけにあんな長い話したのか?  二~三行で済むだろうが!原稿用紙二ページ以上も使うんじゃない!  心の中でツッコミを入れていると緑川が話を続けた。 「それだけではありません。ムラサキが減少した大きな原因は生息地の原野や草原が減少したからだと言われています。居場所がないと言った紫さんと重なる部分があると思ったんです。  それに…ムラサキは高貴な染料とされ、もてはやされ、乱獲されました。減少の一因はその乱獲にもあると言われています。ミスコンで入賞し、その美貌をもてはやされ、ひどい目にあった紫さんとそういう部分も重なったんですよ」    …思ったより考えてた。失礼しました。私は心の中で謝った。    紫は少し苦笑いしていた。 「そんな…私、植物じゃないですよ…。ムラサキなんてそんな高貴そうなもの…うちの両親だってそんなことまで考えてないと思いますよ?」 「ん?他人のことなんて関係ないですよ?私がそう思った、というだけの話です」  紫の言葉に緑川がそう答える。サラッと名言っぽいこと言って、この人は……。  一瞬紫はキョトンとした顔をしたが、すぐに吹き出した。緑川は何が面白いと思ったのか、と首をかしげている。 「緑川さんって変わってるんですね。ふふふふ」 「おや?今頃気づいたんですか?」  紫の言葉に彼は薄く笑ってそう言った。  私も同意見だ。この人が変人だということは今更…って感じがする。 「でも面白い人ですね」  続く紫の言葉にも同意する。この人はいつも予想の斜め上を行く(たまに斜め下も行く)から面白いのだ。 「それもよく言われるんですよねぇ。私は普通にしているつもりなんですが……。そんなに私面白いですかねぇ?花崎さん」 「えぇ、今まで会った中で一番変で一番面白い人です」 「…それ褒めてるんですか?馬鹿にしてるんですか?」  私の返事に彼は難しそうな顔で尋ねてきた。私と紫は同時に笑い出した。あぁ、やっぱり楽しいなぁ、ここは。私は友人と笑いながら改めてそう思った。
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