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香織が店を出た後。ドアベルの音を聞きながら彼はしばし呆然としていた。
(今のは…褒められた…んだよな?花崎さんあっという間に出て行ったからどういうことか聞けなかったけど…。ひょっとして俺が褒めたからお返しで褒めたってことかな?)
そこまで思った時、彼は一人でにやけていた。慌てて口元を腕で隠す。別に誰も見ていないのだが。
(どうしよう。すげぇうれしい…)
彼が先ほど言った香織と紫を褒めた言葉は嘘でも世辞でもない。大体そんなことを言えるなら人とのコミュニケーションで苦労しない。
自分のような人間となぜ一緒にいてくれるのだろう。そんなに自分は面白いのだろうか。彼は半ば本気でそんな疑問を抱いている。
そして今まであまり人と話そうとしてこなかったため、ストレートに褒められるということも久しぶりだった。
「あーもうかわいいなぁ…」
そんな独り言をつぶやいて彼は自分に驚いた。
(誰かの事かわいいなんて言うの初めてじゃないか?紫さんにも積極的にかかわろうとしていたし、俺らしくもない。
…こんな偏屈な人間を変えてしまうなんてやっぱり自分なんかより彼女たちの方がよっぽどすごいな)
彼は一人になった店内でうんうんとうなずきながら、そう結論付けるのだった。
-to be continued
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