第7章 ヒガンバナ(2)

2/4
前へ
/177ページ
次へ
************** 「改めまして香織の父の花崎昇平と言います。娘がいつもお世話になっております」 「香織の母の花崎凛子と言います。よろしくお願いします」 「カフェFleurの店主をしています、緑川樹と言います。こちらこそ花さ……香織さんにはいつもお世話になっています」  改めて三人は自己紹介をした。…緑川に名前を呼ばれるのが少し恥ずかしくて自然に顔がにやけてしまう。 「すみません。本当はもっと早くに伺おうと思っていたのですが、何分忙しかったもので……」 「あ、これ。つまらないものですが」  お母さんが手土産を渡す。 「いえいえ、気を使っていただきありがとうございます」  緑川が手土産を受け取る。事前にお母さんが選んだものだから中身が何かはわからないが、お菓子とかなのかな。 「いや~それにしても……娘から聞いてましたけどほんとにカッコいい方ですねぇ…」 「お母さん!」  お母さんがそうつぶやいたので慌てて呼びかける。うちの母はこういうところがあるからなぁ…。時々思ったことをそのまま口に出してしまう私の性格は母譲りだろう。目力もあり、元気はつらつな印象を人に与える。 「母さん、失礼だろ、もう…」  対してうちの父は穏やかそうな見た目だ。そこまで背も高くなく、眼鏡をかけていておっとりしたしゃべり方をする。パワーバランスもそんな感じでお母さんの方が強い。 「しかしお若いようなのに一人でカフェを経営しているなんてしっかりした方ですねぇ」  …お父さんの言葉にあまり素直にうなずけない。すごい人だけど、しっかりしているかと言われたらまた別で…。 「いえ、そんな…私は別にしっかりしているわけでは……む、むしろ花…香織さんの方がしっかりしてますよ」 「あら、そんなこと言っていただいて…ありがとうございます」 「いえいえ、そんな……」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」  …緑川が話しかけないせいで沈黙が舞い降りた。当の本人はというと愛想笑いで少しそわそわしている。苦手なんだろうなぁ、こういうの。 「あぁすみません。注文もせずに。何かお勧めとかありますか?」 「え!?あ、えーと…特には……」  お母さんが気を使って緑川に話しかけるが、彼はしどろもどろにそう答えた。 「そうですか…じゃあ何にしようかしら」 「では自分はエスプレッソを」 「んーじゃあ私もお父さんと同じのにしようかな」 「店長、私カフェオレで」 「かしこまりました」  どこか落ち着いたような顔で緑川はキッチンに立った。さっきまでの情けない姿が嘘のようだ。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加