第7章 ヒガンバナ(3)

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「それで花崎さんが四十九日をやっていると思ったので、それに少しちなんだ花を飾ったということです。見栄えもしますからね。さすがに花崎さんもヒガンバナは知っていたんですね」  …さすがにそのくらい知っている。 「当たり前ですよ。彼岸のころに咲くから『彼岸花(ヒガンバナ)』って言うんでしょ?」 「はい。そうですね」 「そういえば花が好きだと香織から聞きました。やはりお詳しいんですか?」 「まぁ、普通の人よりかは……」  お父さんの問いに緑川は謙遜する。詳しいなんてもんじゃないよ、お父さん…。 「では少しヒガンバナの説明を。  ヒガンバナというのは元々日本には自生していなかった花らしいですが、田んぼの縁や畑のそばに植えられることで野生化したと言われています。また種も作りませんからね。球根で増えるしかないんですよ。なので人里に多く、山奥とかにはほとんどないんですよ。  そしてヒガンバナと言えば、別名が多いことでも有名です。代表的なものは『曼殊沙華(マンジュシャゲ)』ですかね。これは『赤い花』という意味のサンスクリット語"manjusake"の当て字ですね。他にも『死人花(しびとばな)』、『葬式花(そうしきばな)』『地獄花(じごくばな)』『火事花(かじばな)』『狐花(きつねばな)』などなどなど…数えればキリがありません。それだけ日本人にとってなじみ深い花なんでしょうねぇ」  しみじみと緑川が言った。 「へーそうなんですか…なんだか不吉な名前ばかりですね」  お父さんが相槌を打つ。 「えぇ。名前に『彼岸』という言葉が入っているからですかね。それに毒があることも一因かもしれませんね」 「毒?毒があるんですか?」  今度はお母さんが驚いたように言った。 「えぇ。すべての部分、特に鱗茎にリコリンという毒が多く含まれています。これはヒガンバナの学名"Lycoris"からきています。田んぼや畑にヒガンバナを植えたのも、その毒でモグラなどの害獣が侵入しないように、という目的があったからと言われています。しかし一応リコリンは水溶性らしく、水にさらせば毒が抜けるらしいです。飢饉の時や戦時中の食物が少ない時はヒガンバナも食べていたとか。まぁどの程度さらせば安全なのかはいまだにわからないので危険な行為ですけどね」  そうだったのか、知らなかった…。そうだ。ヒガンバナといえば……。
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