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「……本当にお詳しいんですねぇ。びっくりしました。ね、お父さん」
「いやぁ本当に勉強になりますよ。すごいですね」
「ありがとうございます。面白かったのならよかったです」
両親の誉め言葉に彼はあの微妙に心がこもってない返しをした。二人は少し戸惑っているようだ。
「いやいや、本当に面白くて……」
「大丈夫だよ、お父さん。今のは照れ隠しだから。ね、店長?」
「そこで素直にうなずいたら私負けじゃないですか?いやまぁ多分そういうもんだと思いますけど…」
私の言葉に緑川は渋々同意した。
「へぇ…。随分仲いいのね、二人とも」
「「え?」」
お母さんの言葉に私と緑川の声が重なった。
「ちゃんとお互いのことわかってるというかなんというか……香織は緑川さんのこと理解してるみたいだし、緑川さんもなんか香織と安心して話してるというか…そんな感じがするのよねぇ…」
「母さん……」
「な、なに言ってんの!?お母さん」
お母さんの言葉に私とお父さんが反応する。もう一人の当事者はと言えば、「えーと…いや、そんなことはないと思いますが…」と苦笑しながら否定していた。
「じゃあもういいでしょ、二人とも。ほら、そろそろ帰ろうよ」
なんか恥ずかしくなってきた私は二人を促した。
「いや、もう少し緑川さんと話がしたいな。あまりここまで来ることないから」
「そうねぇ、私ももう少し話したいわ。っていうかあんた車に戻ってなさい。鍵渡すから」
「えぇ……」
私が戸惑っているうちに車の鍵を渡される。私はこのまま実家でしばらく過ごす予定なので帰りも車に乗らなければならない。
「お金はお母さんが払っとくから。ほら行った行った。ここからは大人だけの話よ」
厄介払いというより追い出しにかかっている。実の娘に対してなんて愛のない……いや、そんなわけはないのだが。
「もう……」
まぁ私がいたら話しにくいこともあるんだろう。ここは引き下がっとくか。そう思って私は鍵を受け取り、ドアを開けて店を出た。
「いや、私も大人というほどではないというか…年齢的には花崎さんに近いんですが………」
出る直前でそんな緑川の小さなツッコミの声がなぜか聞こえ、私は思わず小さく笑ってしまった。
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