第8章 ススキ・ヨモギ(1)

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第8章 ススキ・ヨモギ(1)

「お月見……ですか?」  私は人懐っこい笑顔を浮かべる日下の言葉を復唱した。場所はいつものごとくカフェFleur。今日は日曜日で普通に営業日だが日下が客として遊びに来ていた。彼が来たころは少し混んでいたが、一時間もすると人がはけ、今の店内には顔見知りだけになった。 「そ!今度ここで月見をやろうかなと思ってさ、香織ちゃんもどう?」 「いいですね、やりましょやりましょ!いつやるんです?」 「来週の土曜日。そろそろ中秋の名月だからさ。その日は満月らしいし、ベストタイミングなわけ」 「へー…月とか星好きなんですか?」 「ううん、別にそこまで。普通にみんなで食事したいなぁって感じ」  …随分身も蓋もない。まぁ花見も花は二の次とか言うしなぁ…。しかし月見とはずいぶん風流だ。花見と違って地味だし注目されづらい。私も月見らしい月見はしたことがない気がする。 「日下、お前は家主の確認とれよ……まぁ空いてるけど」  キッチンにいた緑川が会話に参加してきた。日下と話す時の気安い口調だ。 「だろうな。お前交友範囲狭いもんな。夜にそんな予定入らねぇだろ?」 「うるさい。っていうか場所提供してもらう人間の態度じゃないだろ、まったく…」  するとテーブル席でナポリタンを食べていた人物も会話に参加してきた。 「なぁ、それ俺も行っていいか?」 「立木さん?」  そう。今日は樹の叔父、立木も来ていた。今日は日曜日で昼休憩をいつもより長くとったため(公務員だから休みなのでは?と思ったがあえて触れないでおいた)、少し遠いこのカフェまでランチに来たそうだ。甥の様子も気になるのだろう。 「立木さんまで来るんですか?」  日下がそう聞いた。 「月を見ながら日本酒をあおる。最高じゃねぇか」 「酒飲むの確定なんですね……」  緑川があきれたように言った。 「樹、お前酒苦手だっけか?まだまだガキだな」  立木が意地悪そうにニヤニヤした(というかあおった)。 「はいはい。それでいいですよ。酔っぱらってグダグダ人に絡むよりかましですから」  対して緑川はすまし顔(いつも通りの無表情?)でそう返した。 「そういえば立木さん、酒癖悪いって樹愚痴ってたな」 「あぁ。まさに酔っ払い親父って感じだったよ…」  日下のつぶやきに緑川がそう答えた。  そういえば彼はお酒強いんだろうか?この間のオフ会でも結局飲んでいなかった。日下は結構飲んでいたのに、しっかりしていたから割と強いと思う。緑川はどうなんだろう。なんかすごい弱そうな気がする。めちゃくちゃ豹変したりして。
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