第8章 ススキ・ヨモギ(2)

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第8章 ススキ・ヨモギ(2)

**************  そんなこんなで一週間後の月見の日。もう九月も終わりかけである。さすがに日中もいくらか涼しくなってきて夜は厚着しないと冷えそうだ。というわけで今日はダウンを羽織って参加することにした。外で飲み食いするのでおしゃれより防寒。薄手のダウンだが今の時間ではまだ少し暑い。 「楽しみだね、お月見」 「そうね。楽しそう」    私がそう言うと横にいる紫がそう答えた。今日はカーディガンを羽織っている。  月見が決まった日、誰か誘っていいか、という質問に快くyesをもらった私は紫と蓮乃愛ちゃんを誘ってみたのだ。紫は前回のぼくちそばの時は予定が入っていて来られなかったが、今日は大丈夫とのことだった。…もしかしたら前回来なかったのは私と顔を合わせづらかったからかもしれないが。  ちなみに蓮乃愛ちゃんはまだ小学生なのでお酒も飲めないし、夜遅くなりすぎるのもまずい。色々親御さんと話し合った結果、夜十一時に親御さんが迎えに来て帰るということで決着がついた。  そして歩くこと数分、Fleurが見えてきた。時刻は午後九時半。集合時間通りだ。そういえばウッドデッキがあると言っていたが、どこにあるのだろう?外から見る限り、どこにもないようだが……。 そんなことを思いながら、「CLOSED」の文字がかかったドアを開けると明るい店内が目に入ってきた。 「では我々はこれで。娘をよろしくお願いします」 「はい。危ないことがないようしっかり見ておきますので」 「警察の方がいてくれるなら逆に安心だわ。よろしくお願いします」  店内には五人の人間がいた。緑川と立木、蓮乃愛ちゃんはわかる。あとの二人の男女は見覚えがなかったが、会話の流れからして蓮乃愛ちゃんのご両親だろう。 「はい。お任せください」  立木がしっかりそう言った。普段の適当さが嘘のようだ。仕事とか初対面の人間にはしっかりできるのだろう。まぁそれが社会人ってものか。  彼女の両親が出て行った後、緑川が私たちに声をかけてきた。 「花崎さん、紫さん。来ましたね。これで全員揃いました」 「あれ?私たち最後ですか。すみません」 「いえいえ、時間通りですよ。ではキッチンに来てください」  そう言って緑川はキッチンに誘った。 「俺もやるのかよ~」 「手伝ってくださいって言ったでしょ?ほら文句言わずに」  立木の文句に聞く耳を貸さない緑川。まぁ確かに蓮乃愛ちゃんも来てるし、四十代のおじさんも手伝うべきだろう。  キッチンには日下がいた。 「日下には色々準備してもらってるんですよ。どう?そっち」  緑川が前半は私たちに、後半は日下に向かって言った。 「まぁとりあえずこんなもんでしょ」  日下が腕を組んで満足そうにそう言った。色々ボウルや団子粉が並べられている。 「そういえば団子ってどう作るんでしたっけ?」 「簡単だよ。団子粉に水を混ぜてお湯でゆでた後に氷水に入れるだけ」  私の問いに緑川ではなく、紫が答えた。 「はい。そうです。紫さんも料理とかはするんですか?」 「一人暮らしなのである程度はできますよ」 「なるほど」  紫と緑川で話がはずんでいるが料理がそこまで得意ではない私は苦笑いするしかなかった。 「じゃ、始めましょうか」  
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