第8章 ススキ・ヨモギ(2)

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**************  団子作りは二つのボウルに分けてやることになった。    ちなみに緑川のセリフの直後に「っていうかそちらの方は…?」という日下の言葉に、そういや面識ない人もいたな、と思い、自己紹介を挟んだりした。    別にボウル一つでもいいんじゃないか?と思ったがどうやらやりたいことがあるらしい。ぼくちそばの時を思い出し、期待が高まる。  チーム分けはシンプルに女性と男性で。私は紫と蓮乃愛ちゃんと一緒に団子を丸めていた。耳たぶみたいな感じで結構気持ちいい。 「そういや蓮乃愛ちゃんってもう学校始まってるんだよね?」 「うん。お姉ちゃんたちは?」 「まだだよ。大学生は十月まで夏休みなの」 「へぇ、いいなぁ。私ももっと夏休み長くほしい…」 「まぁ大学生の方が気楽だよね~。私あんまり小学生の時のこと覚えてないなぁ…何してたっけ…」  そんなどうでもいい会話を交わしながら団子のもとが完成した。本当に早かったな…。私が作ったのと二人が作ったのを比べると微妙に私のは形が悪いような……。  深く考えたら落ち込みそうになるので思考停止。男性陣の方はどうなったかなと見てみるとまだ丸める作業をしていた。しかしその生地は白色ではなく緑色だった。 「あれ?なんで緑色なんですか?」 「あぁ、そちらはもうできましたか。早いですね。これはヨモギを混ぜたヨモギ団子です」 「へぇ、そんなのやってたんですか。あれ?でもヨモギの料理って春先にやるもんなんじゃ…?」  さっきの会話で小学生の時の記憶をさらっていたためにヨモギ団子を作った記憶がすんなり、しかしおぼろげに思い出された。確かあれって春にやっていたような……。 「よく知ってますね。確かにヨモギは春先の若い葉を使います。しかしこの季節でもまだ葉を出したばかりの個体もありますからね。試作作っておいしかったのでこれでも大丈夫かなと思いまして」 「へぇ…」 「私ヨモギ食べたことないんで楽しみです」 「ヨモギって?」  紫と蓮乃愛ちゃんも会話に混ざってきた。 「ヨモギというのは植物のことですよ。独特の芳香があり、昔から日本人によく好かれていました。後で実物を採ってくるので団子と合わせて味や香りを楽しんでください。これは庭で採ってきたヨモギをゆでた後すりつぶして団子の生地に混ぜたんですよ」  そういえば男の方は鍋を使って何かゆでていたが、あれはヨモギだったのか。その分私たちより作業が遅れたのだろう。  そうだ。白色、緑色があるなら……。 「店長、まだ粉余ってますよね?私三色団子作ってみたいです」 「なるほど。いいですよ。三色団子となると、あとはピンク色ですね…。食紅あったかな………。あぁあった。じゃあそちらで作ってください。食紅は色合いが強いので様子見で加えながら調整してください」  戸棚をごそごそやっていた緑川が私に食紅を渡しながらそう言った。 「わかりました。二人ともごめん。仕事増やしちゃって」 「ううん、全然いいよ。ちゃちゃっと作ろ」 「うん!」 「じゃあそろそろ鍋の準備を、と…」 「立木さんやっぱ適当ですね。団子めちゃくちゃ形悪いじゃないですか」 「うるせぇな、こんなもん腹に入れば全部一緒だろうが。日下君は逆に丁寧すぎるだろ」 「出た、暴論。形いい方がいいじゃないですか」  …なんかすごいにぎやかになってきたな。風流とはどこへやら。まぁこれも悪くないけど。心の中でそうつぶやいて私はまた団子を丸める作業に入っていった。
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