第8章 ススキ・ヨモギ(2)

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「気を付けてくださいね」  そんなことを考えていると蓮乃愛ちゃんに注意する緑川の声が聞こえてきた。蓮乃愛ちゃんが登っていくのをじっと見ている。心配しているのだろう。それはわかるのだが……。紫が皿をもって運ぶときも、緑川はじっと紫を見ていた。 「えっと…あの……」 「どうしました?重いですか?」 「いや、あの、そうじゃなくて……」  …紫は少し顔を赤くしてうつむいた。ちなみに紫は今日スカートである。多分紫が転ばないか心配しているだけだとは思うが……。 「はぁ……」  私はため息を一つついて、緑川の耳をつまんで引っ張った。 「イテテテ……何するんですか!?いきなり」 「階段の下からスカートの中見えちゃうかもしれないでしょ!それくらいわかってくださいよ!」 「えぇ……別に見えませんよ?見ようとしなきゃ。せいぜい太ももくらいで……イダダダ!!」 「ごちゃごちゃ言わないでこういう時は男はそっと後ろを向くんです!」 「わかった!わかりましたから!後ろ向きますから!」 「…何やってんだお前ら……」  私たちの漫才(?)を日下が呆れたように見ていた。  そして紫が登り切って(男二人は後ろを向かせた)、今度は私の番、とボウルを持って階段を登る。私はスカートじゃなくてジーンズだから大丈夫、とか思ったけどお尻のラインとか見られたらいやだな…。 「あっ!!」  そんなことを考えているとあと屋根裏部屋までもう一歩というところで足を踏み外した。しまった、と思うが、もう遅い。右足を階段の途中にぶつけてそのまま体は地面へ……。 「おっと!大丈夫ですか?」  来ると思った痛みはあまりなく、代わりに床より温かくて柔らかいものに体が触れた。目を開けると目の前に緑川の顔が見える。それも至近距離で。彼は右手で私の膝を、左手で私の首と頭を支えて、床に座り込んでいた。どうやら彼が助けてくれたようだ。  ここで一気に私の心拍数が上がる。落ちそうになった恐怖と男に抱きしめられたドキドキが同時に来た。私は慌てて立ち上がる。 「あ、あの!ありがとうございました!」 「…うん。怪我もなさそうですね。よかった」  私が立ち上がるのを見て緑川も安心したようだ。途中で打った足もあざとかになってないし大丈夫そうだ。 「大丈夫!?花崎さん!?」 「お姉ちゃん!?」 「どうした?花崎さん大丈夫か?」 「うん。大丈夫。ありがとう」  上の三人が声をかけてきたのでそう返した。 「そういえばボウルは……」 「ここに落ちてるわ。大丈夫。中身こぼれたりしてないから」  私の問いに日下がそう答える。ラップのおかげで助かったようだ。 ほっとした私はさっきのことを思い出した。  さっきの構図。初めて会った時を思い出す。本当に初めて会った時のあの踏切を。あれからまだ二か月ぐらいしか経ってないとは信じられない。ずっと前から知り合いだったような感覚だ。  それともう一つ。華奢に見えた緑川が私を支えられるぐらい意外と力があるんだなということだ。そういえば前に上半身を見た時、意外と締まっていたな。なぜか忘れてしまっていた。彼に支えられたところが熱い。力強い感触を思い出してまたドキドキしてしまった。
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