第8章 ススキ・ヨモギ(3)

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************** 「さてこれで大体用意できましたかね」  緑川がそう言った。取り皿とか箸とかコップとかも準備できた。各自飲み物も注いである。団子の盛り付けも完了している。ちなみに団子は屋根裏部屋からでも出したのか、よく月見の時に団子が乗せられている木の台(名前何て言うんだっけ?)に盛り付けられていた。満月とマッチしてめちゃくちゃいい構図だったのでさっきまで写真を撮りまくっていた。 「あの花瓶に入っているのはススキ…ですか?」 bd4d160c-5202-424c-9067-8dbf07661268  紫が緑川にそう聞いた。私もさっき写真を撮っていた時気付いたが端の方に花が飾ってあった。今まで柱の陰になっていて気付かなかった。あれはススキと……それだけじゃなく、なんか緑色というか茶色のものが見える。 「ススキ……だけじゃないですよね?あれ」 「ふふっ。はい。もう一種活けてあります。花崎さんも紫さんもよく知っている花ですよ」  そう言われて近づいてよく見た。全体的に地味すぎる。ワレモコウのように近づいたら意外ときれい、とかはなく、遠目から見た感じのままだ。なんか小さなつぼからもしゃもしゃと黒い糸が出ているような、そんな感じだ。  私も紫も知っているということはかなりメジャーな花なのだろうが…わからない。葉を見てみるが互生で切れ込みが多い、ということしかわからない。 00011793-a39d-4e98-91ba-1cbc5d45d9ee 「うーん…なんなんですか?これ」  紫と蓮乃愛ちゃんはわからないようだ。私もおとなしくギブアップ。 「これはですね…」 「お、ススキとヨモギ飾ったのか。ほんと色々やるよな、お前」  緑川のセリフを遮ってトイレから帰ってきた日下がそう言った。 「……………」 「え、何?」  緑川のジト目の無言に日下が首をかしげる。 「……別に…」  諦めたのか、視線を外してそう言った。…かわいい。 「へ、へぇ。これがヨモギなんですか。初めて見ました」  紫が慌てて感想を言った。私も同感で、ヨモギという言葉はよく聞くが、実物は知らなかった。 「はい。ヨモギ自体は有名で、春先に葉を採る人もよくいますが、花の姿はあまり認識されていないと思います。夏から秋にかけてこんな花を咲かせるんですよ」 「葉をちぎって揉んでみればわかると思うよ?」  日下にそう言われて葉をちぎって揉んでみた。確かに独特の匂いがする。あぁそうそう、こんな匂いだったわ、ヨモギ。 「葉も上の方にいくとあまり切れ込みが入らないので見分けにくいですね。葉の裏に白い毛が生えていたり、一番確実なのはそうやって葉を揉んでみることですかね」  裏面を見てみると、なるほど、オヤマボクチのように白い毛がびっしり覆っていた。 「花は…そうですねぇ、花びらがないって感じですかねぇ。ヨモギは風媒花ですからね。派手な花である必要はないんですよ」 「あ、風媒花って風で花粉を運ぶ植物ですよね!」  緑川の言葉に蓮乃愛ちゃんが反応した。 「はい。よく知ってますね」  蓮乃愛ちゃんの言葉に緑川がそう言った。 「最近学校で習ったんです。虫媒花は虫に花粉を運んでもらうんですよね」 「えぇ。虫に花粉を運んでもらうため、色や形を派手にして目立たせるんです。そうしないと虫が来てくれませんからね。ちなみにこのススキも風媒花です」 「でもススキはあまり地味な感じしませんよね?」  私の意見に緑川は首を振った。 「花としては地味な方に入ります。ススキはイネ科に含まれるのですが、イネ科の植物は少々特殊な構造でして。花びらもなければがくもない。この白い部分は実についている毛ですね。この毛を利用して風に種子を乗せるわけです」 「なるほど…」 「なぁ、おい。花の話はあとでいいからさっさと乾杯しようぜ」  立木がそう言って急かした。だからどんだけ飲みたいんだ、この人…。 「そうですね。じゃあ、樹、音頭頼むわ」  日下が緑川に乾杯の音頭を振った。 「え、俺?え、えーと、本日はお集まりいただき、ありがとうございました。えーこのカフェに来てくれて親睦を…」 「堅苦しいわ!みんな集まってくれてありがとう!今日は楽しくやりましょう!乾杯!!」 「結局お前が音頭してんじゃねぇか!」 「「「「乾杯!」」」」    緑川のツッコミにそれ以外の四人の声が重なった。
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