第8章 ススキ・ヨモギ(5)

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 つい勢いで聞いてしまった…。こちらを見てきた緑川は表情が変わらない。あからさまに動揺している様子はないが……。 「んー……」  彼はうなりながらそばにあったするめを咥えた。 「なぜそう思うんです?」  いつもなら私が言っているセリフだ。立場が逆になっている。別に推理は好きじゃないが、驚く顔が見てみたい。それに…彼の過去も知りたいのだ。思い切って推理を披露してみよう。 「まず初めて会ったとき、私がキレたら店長謝ったじゃないですか。普段人の気持ちなんてわからないのに、あの時だけ妙に実感がありました」 「ひどい言いぐさですねぇ」  緑川は口元に笑みを浮かべながらそう口をはさんだ。 「あれは多分実際に経験しないと店長の口からは出てこないと思います。だから店長は自殺しようとしたことがあるんでしょう?」 「…それだけですか?根拠としては薄いと思いますがねぇ」 「それだけじゃありません。蓮乃愛ちゃんの時だって自分の名前が嫌だっていうときに『自分が気に入っていなければだめだ』みたいなこと言ってました。それに紫にムラサキの話をした時だって『自分に本当にそんな価値があるのか、と?自分はここにいていいのか、と?』みたいなことも言ってたじゃないですか。あれも同じように前に似た経験があったから出てきた言葉。ネガティブな思考は自殺する人にはよくあると思いませんか?」 「するめ嚙み切れないな…。大事な人を亡くした経験というのは?」  するめを噛みながら緑川がそう聞いてきた。…真面目に聞いているのか、いないのか…。 「紫と仲直りする前に言ってましたよね?『人は他人の気持ちを完全に理解できるものではない』って。これも過去にそう思わされるようなことがあったから。自分のせいで大事な人を傷つけてしまったんじゃないですか?  そして前にうちの両親が来た時、四十九日について詳しく説明していました。普通思い浮かべても葬式だけですよね?四十九日も準備したことあるんでしょ?つまり親戚の誰かが亡くなったってこと。」 「なるほど…。それで身内、つまり大事な人を死なせてしまい、自殺を考えるようになった…と推理したわけですか。えーと甘いものないかな…っと」  緑川は私の推理をまとめて別のつまみを探し始めた。なんだろう、ちょっと違和感。ここまで真面目に聞かない人だったか?この人。 「それに今の店長の態度もそうです」 「私の態度?」  その言葉にようやく彼はまともにこっちを見た。 「今、あんまり真面目に聞いてないというか、話半分に聞いてるじゃないですか。なんかごまかそうとしてません?私の推理が当たってたからでしょ?」 「ふむ………」  私の言葉に緑川は一つうなずいてそのまま黙り込んだ。どうだ、と思っている私はそのまま反応を待つ。
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