第8章 ススキ・ヨモギ(5)

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「…ま、四十点ってとこですかね」 「……へ?」  いきなり点数をつけられた。考えたくないのだが、まさか…。 「今の推理を私なりに採点しました。四十点です」 「……五十点満点中?」 「百点満点中です」  …赤点を取ってしまった。 「花崎さんの推理は所々当たっています。確かに私は自殺しようとしたこともありますし、葬式や四十九日の準備をしたことだってあります。しかしそれらを結び付けているのは花崎さんの思い込みでしょう?それは推理ではなく、予想です。例えば大切な人が死んだからそれで生きていく気概を失って自殺を考えるようになった、ということも考えられるじゃないですか。実際私は自分のせいで誰か親しい人や大切な人を亡くしたことはありませんよ?それに感情面に頼った推理も多いです。もちろんそれもありだとは思いますが、不正確かな、と思い、少し減点しました」 「じゃ、じゃあ、さっきまでの真面目に聞いてないような態度って……」 「見た通り思った通り真面目に聞いてません。ひどい推理だったんで話半分で聞いていました。酒も入っていますし、あまり遠慮というものがなくなっているようですね、私も」  ガーン。私はがっくり頭を垂れた。この人時々容赦ないよなぁ…。    私を打ちのめした張本人はお構いなしにつまみを探している。 「お、アルフォ〇トだ。最後の一つもらおっと。とはいえ、面白かったです。特に最後のドヤ顔の部分」 「~~~あ~もう~!」  恥ずかしさのあまり私は顔を手で覆った。これが黒歴史か!やってしまった……。いや考えてみれば病院で緑川や紫にちょっと恥ずかしいことを言ってしまっていた。黒歴史とは自覚から生まれるものなのか!私はこの世の真理にたどり着いたような心境になってしまった。 「まぁ冗談です。所々当たってはいたので、そこは面白かったですよ。感情面に頼った推測もありですね。私はそういうの苦手です。そこは誇っていいですよ」  緑川はそう言って笑った。…笑顔かわいい。 「しかし私の過去に踏み込んでくるとは。前に私が話してくれるまで待つと言ったのに」  ぼくちそばの後の話か。確かに言った、うん言った。 「…すみません。ちょっと、つい…。怒ってます?」 「いいえ。前と違って心にくるものがありませんでしたから。  ま、この四十点に免じて少しだけお話しますよ、私のこと。酒のおかげで私も口が軽くなっていますからね」  そう言った彼は片膝をあげ、そこに腕をのせた。月明りに照らされたその姿に思わず私は見とれてしまった。
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