第8章 ススキ・ヨモギ(6)

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「あぁ、そうだ。酒が入ってるこのタイミングでしか言えないようなことも言いたいです」  なんか変な申告だな。私は素直にそう思った。 「なんですか?」 「あのトリカブトの事件の時、私、一度病院へ行ったじゃないですか。あの時すごく花崎さんのことが心配でした」 「え!」  再びドキッとした。 「柄にもなく本気で心配しました。無事に再会できてすごくほっとしましたよ」  あの時。再会して立木が日下を呼びに行っている間。緑川はじっと私のことを見て、何かつぶやいた。今の言葉と合わせて考えると…『無事でよかった』と言ったのか? 「私の中でいつの間にかあなたの存在が大きくなっていたようです。あなたが無関係に殺されそうになったことに怒るぐらいには。あなたに死なれたら悲しむくらいには、ね。  なので死なないでください。これからもどうぞよろしくお願いします」  トリカブトの時、里美さんに怒ったのは私のためだったんだ…。それに初めて会ったとき、『私が死んだら悲しみますか?』という質問に『あなたの重荷になりたくないので悲しみません』ということを言っていた。今の言葉は私からしたらハードルは低いが、彼なりの心境の変化というか誠意の現れだろう。  私は深く息を吐いて顔を手で覆ってそんなことを考えていた。  そして。  あぁ、私多分この人のこと好きだな。  唐突にそう思った。
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