カミは舞い降りた

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 下手くそな自己啓発系youtuberの新米教祖みたいなやたら大仰で物々しいありふれた説教御高説なんかで、俺の苦悩が、この苦痛が解きほぐされるわけが無いことなんて見る前から分かっていたんだが、それでも、この苦しみの元凶に、会社に行かなければならない、社会に属さなければならない、っていう文化強制の茨が俺を雁字搦めにして個人の逃げる自由意思を奪いやがるから、苦しい、ああ、死にたい……もう、死なせてくれよ、なぁ、カミサマ……。  それは一枚の紙だった。  まるで鳩が落とした羽のように、俺の目の前をゆりかごが優しく揺られる軌道でヒラヒラと舞い降りてくる。俺は落下中のそれを半ば反射的に掴んだ。  それは一枚の紙だったが、俺だけに降って来たわけじゃない、周囲の人間も各々それを天から受け取り、老若男女が不思議そうに見つめている。  俺も周囲に倣う様に掴むそれに目を落とす。紙表にはゴシック体の大きな黒字でこう印字されていた。  『生きる  死ぬ』  その下には、※で簡素な注意書きが一文だけ書き添えてあった。  『※選択は一度だけ、希望する方に丸をつけよ』  俺は深く大きくゆっくりと深呼吸する。落ち着くまで何度も何度も繰り返す。やがてなんとか呼吸だけが整い始めたところで、スーツの胸ポケットから、元カノが入社記念でくれたやたらに太い万年筆を取り出し、キャップを投げ捨て、まだ震える指先で漆黒のインクをその紙に滲ませ――  ――ふわぁ?あー、そろそろ10時か。はぁ~あ、なら、ぼちぼち朝食にでもするかな。てか、食べ物どんぐらい残ってるかな?お、良かった。まだまあまああるじゃん。でも配給日は来週だから大事に食べなきゃな。今朝はこの缶詰のパンとスープでいいか。そんでタブレットもスタンドに立てて――、よし、食卓完成!さてと、いつものようにニュースでも見ながら食べますか。そんで番組はどれに、――ってまあ、いつもと同じ番組なんだけどね。なんせ動画配信サイトもその運営企業も番組も世界に一つだけになったんだからな。お、今日は男のキャスターか、珍しいな。んで、いつものように画面のここから自動翻訳をオンにして、っと。どれどれ、そんじゃいただきます(パチンッ)。  『おはようございます。今朝の人類生存情勢です。○月○日10時現在、世界人口は約1億4000万人、国数約56か国です。前日に比べ、人口約3500万人減、国数約18か国増となります。この主な原因として、まずは前日に勃発した《カミ》を巡る――』
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