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「あれって、君だったの?」
「そうだよ。やっと思い出したか」
見上げた空にはあの時を再現している様な月が有る。
「因みに月が奇麗ってのは好きな人に言うんだって教えてもらった告白だったんだよ」
「夏目漱石? 子供にはわかんないよ」
流石にそんなことをあの年で知っている人なんていないだろう。
「通じたと思ったのに」
「まさかだね」
クスっと笑って彼女のことを見つめる。でも、全く通じてないわけでは無かったのだろう。今になって思えばだけど。
「じゃあ、約束も?」
「それは、どうかな」
彼女が期待をしていた明るい笑顔を見せていた。丸い月のもとに僕たちはずっと一緒に居る。すると、僕たちの背後で物音が聞こえる。もう僕たちは二人じゃない。
「おかあさん」
眠っていた時に両親の姿がなくて顔を見せたのは彼女に良く似た姿。でも、彼女から言わせると僕に似ているらしい。
「起きちゃった? こっちにおいで」
彼女がそう言い両手を広げると幼い足取りで僕たちのほうに近づく。彼女に抱っこされた我が子がニッコリと笑っている。幸せな瞬間。好きな笑顔が二つ並んだ。
「なんみてたの?」
「お父さんとお月様見てたの」
「おつつきさま?」
まだ言葉がたどたどしいく意味が解らないみたいなので「ホラ。あれだよ」と僕が教えた。僕が近付くとちょっと嬉しそうに微笑んで手を掴んで夜空を確かめる。
「まんまるだ!」
ようやく夜空に輝いている月を見つけるとちょっと驚いていた。
「奇麗でしょ。お母さんお月様好きなんだ」
「じゃあ、あたしもすき。おとうさんも?」
二人を眺めてたらとっても心が落ち着く。
「そうだね。君たちの次くらいには」
この言葉に小さな笑顔が有ったが彼女のほうは悪だくみな瞳になっていた。
「お父さんはお母さんとの約束を忘れてるんだよ。悪い子でしょ?」
こんな年頃の子だからすぐに同調する。
「わるいこ」
さっきの笑顔が無くなってむすっと怒った顔になっていた。だけど彼女がその様子を見て楽しそうに笑うと笑顔が戻って、また素敵な笑顔が連なっていた。
「僕が君を守るから」
懐かしい事を忘れてなんか無い。
「忘れてたかと」
瞳を輝かせてとても嬉しそうに笑う。
おわり
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