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「俺は小学校の頃から君を知っている。その時の事か?」
そう僕たちの出会いはそんなに昔からで、これまで彼女には話してもなかった。
小学校の頃に塾に通っていた。半分遊びだ。友達に会うのが目的だった。そんな有る時の帰り道に彼女を見付けた。
「迎えは無いの?」
普段はそこにはない姿。塾では良く見ていた姿だったので自転車を止めると僕は気軽に声をかけていた。
「今日は親が都合悪いからバスなんだよ」
なんとなく納得して僕は「ふーん」と返してそれでも彼女と並んで歩くと「どうしたの?」と聞かれた。
「取り合えず。護衛? 的な」
「あっそ。ならバス停まで送ってね」
普通は断るところなのかもしれない。どちらかと言うと僕は行動に困ったからだったけど、こう言われたら送るしかない。
「同じ学年だよね。確か、算数の強い」
僕のほうは見たことが有る程度の彼女だった。それなのに彼女は僕の事をちゃんと覚えていたみたい。
「得意って程じゃないけど、あのくらいはわかるでしょ」
「それはできない子にはイヤミになるから気を付けなよ。私みたいな数字が苦手な人間には」
「へー、算数が苦手なんだ」
単なる相槌のつもりだったのに彼女からは「塾で怒られてるの知ってるでしょ」と僕の気付かなかった情報を教えていた。どうやら彼女は怒っている。
「解らない所は俺に聞けば良いよ」
ニコッと笑うと彼女がふっと微笑んだ気がした。その日からだ。彼女の事を忘れないようにしようと思ったのは。
けれど、次の日には塾で僕たちが並んで歩いていたのが話題になっていた。子供なんてこんなもの。でも僕も子供だった。
「偶然会っただけで、こんな奴知らないよ」
彼女だってその場に居るのにそんな事を言い放っていた。それで彼女から算数を教えてと言われる事はおろか、二度と帰り道が一緒になる事もなくなり、いつの間にか塾に彼女の姿は無くなっていた。
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