麗しのオディール

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 黒いローブを纏って、顔にはベールをかけて、黒ミサが行われているという森の中に入る。ランタンの明かりでも周囲を照らしきれない暗い森の中では、ふくろうの鳴き声や獣が動く音が聞こえてくる。  いつ獣におそわれて食べられてしまうのか。それを考えるとこわかったけれども、それでも私は黒ミサを目指した。  そして、森の奥深くにある泉のほとりに、私と同じように黒いローブを纏った人が何人も集まっているのを見つけた。  彼らは火にかけた大きな銅の鍋を囲っていて、鍋のそばには赤子を抱えた人がいる。  どんな赤子なのかは暗くてよくわからないけれども、ただ耳をつんざく泣き声を上げていた。  取り纏め役とおぼしき人物がみんなを見回して黒ミサをはじめる。話の内容以外は教会で行われるミサと大差はない。  そう思っていると、泣いていた赤子が煮えたぎる銅の鍋の中に放り込まれた。  きっと、いつもの私だったら悲鳴を上げていたと思う。けれども、なぜかあの赤子を憐れだと思うことはなかった。  取り纏め役が悪魔への祈りの言葉をあげると、銅の鍋の向こう側にゆらりとなにかが現れた。  鍋を熱する炎の明かりに照らされたその姿は、首から上が山羊になっている人型のものだった。  あれが悪魔だ。そう直感した。  みんなが悪魔にひれふす。悪魔はなにも言わない。取り纏め役が煮えた赤子のスープをまずは悪魔に振る舞い、それから他のみんなに配る。赤子の肉を食べるのははじめてだったけれども、以外と癖もなく、柔らかくてほんのり甘かった。  スープを食べながら、悪魔が私達に訊ねる。 「で、今回はなにか願いとかあるの?」  私は咄嗟に悪魔の前に進み出て、縋るようにこう言った。 「私を誰よりもうつくしくしてください」  それを聞いた悪魔は、私の顔にかかったベールを捲ってから頷く。 「なるほど。それは神じゃなくて悪魔に願う願いだね。 いいよ。君に誰よりもうつくしくなる呪いをかけてあげよう」  悪魔は私の顔をその大きくてごつごつとした手で掴んでから、なにかを唱える。 「君が死んだ後、君の魂を僕がもらうけど、それでもいいね?」  私が頷くと、悪魔が手を離した。すぐに顔を触ってみたけれども、あいかわらず肌は荒れたままでなにも変わったようには思えない。  悪魔は言う。 「乙女の血を浴びる度にうつくしくなる呪いを君にかけたよ。 たくさん浴びれば浴びるほどうつくしくなるからがんばってね」  血を浴びるというのは恐ろしいことのように思えたけれども、それでうつくしくなるのならやってやろう。  黒ミサが終わった後、私は森の近くの寝静まった村で少女を攫い、その血を浴びた。  すると、触るまでもなくわかるほど肌が潤った。
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