ただの日常

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ただの日常

俺の仕事が一段落ついて、だいぶ早く自宅に帰れる日が続いている。 「ただいまー。」 「おう、おかえり。」 ただいまって言えば、お帰りって返してくれる。 俺たちがまだ、ただの親子同然だった頃は俺がおかえりって言う側だった。 光都くんが帰ってきたとき、ここが君の居場所だよ。帰ってきてくれてありがとうって気持ちを伝えたくて、仕事はきっちり5時に帰れる部署に変えてもらった。 初めてこの家に帰ってきたときの光都くんは どこか戸惑っている様子だった。 それがどんどん、はにかむような、照れくさそうな笑みに変わった。 『た、ただいまっ!』 『うん。おかえりなさい、光都くん。』 『、、っうん!』 こんなに可愛かった光都くんは いつのまにか、とても格好良くなっていた。 「おーい、聡太さん?どうした?疲れた?」 僕の顔をじっと覗き込む光都くん。 「えっ、あ、光都くんが来たばっかりのこと思い出してさ。俺がおかえりって言ってたのになぁってさ」 ついつい、昔を思い出して微笑んでしまう。 「俺だって、おかえりって言いたかったんだよ。 毎日、俺のために早く帰ってドアの前でおかえりって言ってくれて嬉しくて、、。俺も、お疲れ様って、き、気持ちでさっ、迎えてみたかったんだよ」 かぁっと真っ赤に染まる耳。照れ隠しにちょっと大きくなる声。ふいっと顔を背けられた。 俺は吸い寄せられるように光都くんの真っ赤な耳に手を添えた。 ビクッと震える光都くんが驚くように見ている。 が、実際に俺が一番驚いていた。 「えっ!?わっ、あ、ご、ごめん。なんか 可愛いなぁって思ったら手が勝手に、、」 どんどん恥ずかしくなって、声が小さくなっていく。 「かわいいって言うなよ!俺だって、大人になったんだからっ!てか、なんだよそれ、くっそ!」 ずりぃと小さく溢す光都くんはなんだか、とても悔しそうだ。 「あのな、聡太さん。俺はあんたを好きなんだ。 そんな無防備に俺に触られたら、我慢できねぇんだよ。分かってる?」 「え、あ、う、うん。わ、分かってるよ?けどさ 手がこう勝手にね?」 どもる僕の口を手で塞ぎ 片手でぐっと腰を抱き寄せた光都くんは 「俺も聡太さんが、好きすぎて手が勝手に動いた、、。」 な、な、な、何を言ってるの!!! 顔が近いし、声が耳に響いてやばい。 「ふっ、、。顔赤いな。かわいい。 もっとさ、意識してほしい。俺だって男なんだぜ。」 ふと腰を抱いていた手をほどき、微笑みながら僕の顔を覗き込む。 うぅっっ、なんかなんか、、光都くんが 僕の知ってる光都くんじゃない、、。 「じゃ、俺さ飯作ったから一緒に食おう。」 二人で食卓に座り、いつものように 彼の作る美味しいご飯を食べる。 あんなことがあったからか、顔を直視できない。 そんな俺をみて、なんだかニヤニヤしているような気がする。 「なぁ、聡太さん。聡太さんと食うご飯は 特別美味しいな。」 と先程の男らしさとは裏腹に 可愛らしい笑顔で俺を見て言う。 「あぁ。そうだな。一人だとご飯は寂しくなっちゃったな。」 光都くんがいない部屋で 一人で食べるご飯は美味しくなかった。 光都くんがいるこの部屋で、光都くんのご飯を一緒に食べる。それだけで何故かご飯は美味しく感じる。 こんな日々が、僕は好きだ。
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