覚悟の日

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それから一週間後、篤人が一人で家へ来た。荷物をとりに。光都くんは今、小学校に行っている。 「なあ。篤人。お前さ、光都くんのこと知ってたの?」 俺は尋ねる。 「は?虐待まがいなことしてたのは薄々気づいてた。 けど、俺には関係ねぇからさ。」 何いってんだこいつ。 「だって、あいつ。俺の子供じゃねーもん。」 は? 「何いってんだよっっ!お前はっ、俺がっ、 嫌で抱けないから、子供作ったっていったじゃねぇかよ!!!!」 情けない。辛い。しんどい。意味がわからない。 俺は、俺はいったいなんの為に、、、。なんの為にお金を払い続けたんだよ。何年もさ。 「あいつは、俺の兄ちゃんの子供だ。」 お兄さんがいたのか。ははっ、。俺って篤人のこと好きだけど何も知らないなぁ。 知ってるのは、篤人の耳を触る癖や喋り方の癖 ハンバーグが好きなこと、子供が好きだったこと、 光都という名前をつけたがっていたこと、 絵里さんをあいしてること、そして 俺のことは好きじゃないってこと。ただそれだけだ。 「でも、お前が昔言ってたじゃないか。 子供ができたら光都ってつけたいんだって。」 篤人は目を見開いて、驚いた様子で俺を見つめた。 「なんで、そんなこと覚えてんの。」 そりゃそうだ。だって俺は、どんなにひどいやつでも 好きなんだから。 「覚えてるよ。好きだから。」 すると、彼はうつむいてごめん、、と呟いた。 「あつと、、。謝んなよ!俺は、俺から別れたんだ。 俺がお前を捨てた。光都がお前たちを捨てたんだ。 忘れんなよ。」 すると、今までは何をいっても変わらない表情が クシャッとなった。 「お、俺の兄ちゃんがさ、絵里を無理矢理抱いたらしいんだ。」 とポツポツと話し出す。 「お前と付き合って、抱いたあの日。家に帰ると絵里が 裸で蹲ってた。顔には痣、手足には縄で縛られた跡、それから流れてくる血。俺は、すぐにあいつを病院に連れて行こうとしたんだ。そしたら、兄ちゃんが部屋から出てきて、言うんだ。もういらねぇから。って。」 俺は衝撃的すぎる話に唖然とした。 その後、食事もできない、移動もできない、話せない、 誰かに触れられるのもフラッシュバックするしで大変だったそうだ。 彼女の世話をするために、俺との誘いを断るようになったらしい。 そんなある日、彼女のお腹が大きくなっていることに気づいた。篤人は彼女を連れて病院へ。 そして妊娠が分かった。 「荒れたさ、絵里は。でももうその頃には俺はお前じゃなくて絵里に情がうつってた。あいつを守れるのは俺なんだって。」 そう。篤人が苦しんでた時、俺は何してた? ただ、もう抱いてもらえない絶望だけを感じてしまって篤人を見てなかったのかもしれない。
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