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はじまり
おかえり。今日も遅くまでお疲れ様。」
「あぁ。」
これは、僕達の毎晩の挨拶。
僕は畠山聡太 27歳。彼は同じ歳の松山篤人といって、僕の恋人です。
とはいっても、かれこれ10年も恋人なので長い付き合いになったなぁ、、。
「お風呂湧いてるよ。入ってきなよ。」
「あぁ。お前は寝とけよ。遅いんだし。」
一見、優しい声かけにも見える彼の言葉。
これはつまり、『俺は今から別のやつとセックスしてくるから、寝とけ。邪魔すんなよ。』
という意味をもつ。そう、彼は僕に隠して浮気をしている。かれこれ10年ほど。
付き合ってからずっと、彼は浮気をしている。
それを僕は許してる。だって仕方ないから。
僕では満足させてあげられなかった。初めて篤人と重なった日の翌日から、彼は浮気をはじめた。
きっと僕が、いい身体じゃないからだと思ってる。
きっと、いれるときに痛がったりしたから。それ以来、何度もセックスをしたいと、誘ったところで彼は
僕に一度も触れてはくれなかった。
『は?もうしねーよ。あんなに痛がってんのに。』
『今日?いや、もう家帰るから。』
『今日は別のやつと約束あんだよ。ごめんな。』
『別にお前としなくても大丈夫だから。』
こんな言葉で拒否された僕は、すっかり自信をなくし
誘うのをやめた。
そして、7年前の僕の誕生日の日の朝だった。
その日は、篤人が僕の家に来て誕生日を祝ってくれる
はずだった。
ピンポーン
「あ、もう来てくれたのかな。はいはーい!今開けるから!」
立っていたのは篤人、、ではなく
綺麗な顔立ちの女の人だった。その腕には
どことなく篤人の顔に似ている子供が抱っこされていた。
「あ、あの。なにか僕に用ですか?」
「あんた。人の恋人と浮気しといて、用ですか?って、、。信じられないわ。」
浮気、、?篤人がってこと?
「あ、、あの、、。う、浮気って?
その子供っても、、、もしかして」
考えたくない。信じたくない。受け入れたくない。
知りたくない。
でも信じていたい。
「えぇ。あっくんの子供よ。よく似てるでしょ?」
あっくんって呼ぶんだな、この人は。
あぁ。よく似ている。この目の形や鼻の形、口の感じも全部そっくりだ。
僕はずっと篤人が好き。篤人が好きじゃなくても僕は好き。だから分かる、この子供と篤人がそっくりだって。
僕は涙は流さず聞いた。
「あの。その子は何歳ですか?」
「この子は、3歳よ。名前は光都」
壱夜、、。これって、、
『俺さぁ、もしも自分の子供ができたとしたら光都って
名前にしたいんだ』
僕は高校生だったあの頃。僕達が恋人でなかったあの頃。彼がそう話していたのを聴いていた。
そっか、これじゃあ疑う余地もないな。
「そうですか。で、今日はそれを言いにきたんですか?」
別れろって言われるのかな。
「いいえ、私達から恋人や父親を奪ったあなたには
慰謝料を払ってもらおうと思ってね、来たのよ。」
慰謝料、、。弁護士がいないのに、そんなのって成立するの?
でも、、。好きな人を奪われて、子供を一人で3年も育てたんだよな、。
その間、僕は幸せというほどではないけれども
普通に生活してたんだ。人の大切な人を奪って。
当然か
「分かりました。お支払いします。月に何円でしょうか」
「随分あっさりね。まあ、いいわ。慰謝料とはいっても
あっくんもたまに子育てに来てくれてたから、あんまり多額じゃないわ。」
「え、手伝ってたんですか。そっか、、」
じゃあ、やっぱりあの時の言葉は僕を拒否する言葉だったんだ。誘わなくて良かった。
そこまでするなら、どうして僕と別れないんだろう。
どうして僕は別れようの一言が言えないんだろう。
「僕、別れたほうがいいですよね。慰謝料も払います。」
「え?別にいいわよ、別れなくても。毎日要られても困るし、、。」
え、どういう意味だろう。この女の人は篤人が好きなんじゃないの?それに、篤人も子供を育てるんだから好きなんじゃないのか?
もう、僕にはおかしい主張に言い返すエネルギーも残ってなかった。
やっぱり、浮気をしていたんだというショック
子供を育ててたんだというショック、僕以外の人を抱いていたたという痛み、僕のことは抱いても触ってもくれなかった絶望。
それから、、。僕には叶えられなかった子供を授かり、育てていたことがなにもりもショックだった。
そうか。僕が可愛そうだから別れられないんだな。
僕があまりに滑稽で、哀れで、可愛そうだから。
それでも、、僕は篤人が好き。篤人のそばで生きていたい。
彼女が別れなくていいというなら、僕は別れない。
でも、僕が彼女の立場ならきっと別れてほしいと思うはずだ。罪悪感をいだく。
「いくらでも払います。光都くんが大きくなるまで
支払い続けます。」
彼女はホッとしたような、微笑みを浮かべた。
「あら、ありがとう。なら、月に10万ずつお願いするわ。」
月に10万、、。俺生きていけるかな。
でも、人の恋人を奪ったんだから当然だよな。
考えてみればおかしいと分かるだろう。
考えてみれば多すぎる金額だし、篤人に言えばいいとか
なぜ別れないでいいのか、、聞くべきだろうが
僕にはそんなこと考える余裕さえなかった。
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