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アレスとカーリー
「ここが宝物庫……」
そこには金や銀で作られた宝飾品や、大きな宝石が所狭しと飾られていた。
そして、その奥には何冊かの本が、本棚にしまわれている。
「王家に伝わる薬草と魔術の秘伝書はこの中です」
兵士が本棚を解錠した。
「アレス様、カーリー様、どうぞご覧下さい。ただし、ここで得た情報は他言無用でお願い致します」
王と王妃が見守る中、アレスとカーリーは王家に伝わる書物を丁寧に調べ始めた。
何冊か目を通していると、薬草と秘術について書かれた本を見つけることが出来た。
「アレス様! この本に書かれている『霊魂のしずく』という薬がチャーリー様に効きそうです!」
「そうか! カーリー様、作れそうか?」
アレスは心配そうにカーリーの表情をうかがった。
「……ええ。作り方は複雑ですが、これなら何とかなりそうです」
カーリーは王の許しを得て『霊魂のしずく』の作り方を写しとった。
「褒美はこれだけで良いのか?」
「はい、王様」
アレスは少し寂しそうな笑みを浮かべて、王に返答した。
「兄上が健康になれば、ガルシア家も安泰でしょう」
アレスの言葉に王は不思議そうな顔をした。
「アレスよ。あのような言動をとられても、まだガルシア家を心配しているのか?」
王の問いかけにアレスは少し笑って答えた。
「……両親に、ここまで育てて頂いたのも、兄上に優しくしていただいたのも事実ですから」
「……そうか。アレス、其方は立派な青年だ……ムーア男爵、こちらへ」
「はい」
ムーア男爵は、侯爵にアレスをもらい受けると言ったことを咎められるのではないかと、冷や汗をかきながら王の前に歩み出た。
「ムーア男爵、アレスを大事にするように。アレスは国一番の剣士だ」
「はい、王様」
「そして、アレスよ、其方に騎士の爵位を与える」
アレスは真剣な表情で王に答えた。
「ありがたき幸せです」
王はアレスを見て、ため息をついて言った。
「ガルシア侯爵があのような男だったとは、残念なことだ……」
「王様、兄上のチャーリーは立派な人物です。兄上はガルシア家を変えていくと思います」
アレスは真摯な態度でそう宣言した。
「そうか。アレスが言うのなら、爵位の剥奪はもう少し考えることにしよう」
王の言葉を聞き、アレスは微笑んだ。
「それでは早速、家に帰り『霊魂のしずく』を作りたいと思います」
カーリーがアレスに言った。それを聞いた王がカーリーに告げた。
「そうか。上手くいったら王家にも、一つ作って欲しいのだが」
「はい、王様。分かりました」
カーリーとアレス、ムーア男爵達は城を出るとムーア家に向かった。
「アレス様、先ほどはアレス様の了承も得ずにムーア家に来て頂くと言ってしまい申し訳ありませんでした」
ムーア男爵が申し訳なさそうにアレスに言うと、アレスは笑った。
「こちらこそ、ガルシア家と縁が切れて、心が軽くなりました。……ただ、兄上は悲しむかも知れません」
カーリーはその言葉を聞いて、俯いた。
「……まずは『霊魂のしずく』を作って、チャーリー様に健康になって頂かなくては」
カーリーはメモを見つめて、呟いた。
「……そうだな」
一行はムーア家についた。カーリーは調理室のとなりにやる薬草室から、いくつかの植物と精製水を取り出し『霊魂のしずく』の作成に取りかかった。
アレスはムーア男爵に言われ、シャワーを浴び、ボロボロになった服を着替えた。
アレスの身支度が調った頃、カーリーの嬉しそうな声が屋敷に響いた。
「出来ました!」
ガラスのビンの中には、青白い液体がゆらめいている。
「それでは、兄上に持って行こう」
「はい」
アレスとカーリーは、ガルシア家に馬車で向かった。
ガルシア家に着くと、チャーリーがアレスを出迎えた。
「父上から聞きました。アレス、この家を出るのですか?」
「はい。それよりも兄上、兄上の体を治す薬が出来ました。カーリー様が作ってくださったのです」
「え? 私はもうずいぶん良くなっていますよ?」
確かにチャーリーの顔色は、ハイポーションを飲む前に比べて、良くなっている。
「この薬は、王家に伝わる秘伝の薬です。ハイポーションは飲み続けなければいけませんが、この『霊魂のしずく』を飲めば、簡単な呪いや病気は治るはずです」
カーリーに手渡された、小さなビンをチャーリーは静かに見つめた。
「さあ、兄上、飲んで下さい」
「……分かりました」
チャーリーが『霊魂のしずく』を飲むと、彼の体は一瞬淡い光に包まれた。
次の瞬間、チャーリーは目を見開いた。
「体が軽い! 呼吸も苦しくありません!」
「良かった。薬が効いたのですね」
アレスとカーリーは、チャーリーの回復を無邪気に喜んだ。
「アレス、いや、アレス殿。勝手に人の屋敷に入られては困ります」
「……ガルシア侯爵……」
カーリーとアレスの表情が曇った。
「父上、カーリー様の薬で私の体は健康になりました。薬が作れたのはアレスのおかげでもあります。どうか、アレスをもっと大事にしてください」
チャーリーの言葉を聞き、アレスは笑った。
「兄上、私は自ら望んでムーア家の一員になったのです。是非、ムーア家に遊びに来て下さい。こことは違い、居心地が良い」
アレスの台詞を聞いて、カーリーも微笑んだ。
「チャーリー様、これからも私たちをよろしくおねがいします」
「……はい、こちらこそよろしくお願いします」
チャーリーは少し寂しそうに微笑むと、カーリーに恋愛小説を返した。
「現実は小説よりも、予想が付かないものですね」
カーリーは本を受け取ると、アレスと手をつないで馬車に戻っていった。
「カーリー様、兄上のことは良かったのですか?」
アレスがカーリーに訊ねると、カーリーは怒って言った。
「アレス様、婚約者に何ということをいうのですか!?」
「……すまない。魔女の汚名を着てまで、私を助けてくれるとは思っていなかった」
「アレス様は、愛情になれていらっしゃらないのですね」
「え?」
振り向いたアレスに、カーリーは口づけをした。
「アレス様、これからは一緒に幸せを築いていきましょうね」
「……カーリー様……」
アレスは真っ赤な顔で、カーリーに向かって微笑んだ。
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