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森
夜が明けたばかりのまだ薄暗い時間に、カーリーは家を抜け出し森に向かった。
「白い葉の薬草は、森の奥の川縁に生えていたはず」
カーリーは採取した薬草を入れる袋と、護身用のナイフを鞄にしまい、一人森の中を進んでいく。
森の奥の川辺につくと、カーリーは薬草を探し始めた。
「これとこれ……あ、あっちに白い葉がみえるわ」
カーリーは川上に向かって歩きながら薬草を摘んでいった。
しばらく採取を続けていると、獣の唸る声が聞こえた。
「……!? 山犬だわ……どうしましょう……」
カーリーは木の陰に身を隠したが、山犬が近づいてきた。
「ガゥゥッ!!」
「きゃあ!」
山犬がカーリーに襲いかかった瞬間、何かが山犬の胴体を打った。
「キャウウン」
山犬は走って逃げていった。
「助かった……」
カーリーが腰を抜かして座り込んでいると、日に焼けた手が差し出された。
「こんなところでなにをしていたんだ? カーリー様」
「……アレス様」
カーリーはアレスの手をとって立ち上がった。
「薬草を摘んでいたらこんな所まで来ていました。……アレス様こそ、何をされていたんですか?」
アレスは剣をしまい、言った。
「剣の稽古だ。この辺りには弱い魔物や野犬もでるから、良い腕試しになる」
「そうですか、助けて下さってありがとうございます」
カーリーがアレスに微笑んで言うと、アレスは顔を背けた。その耳がすこし、赤く染まっていたことにカーリーは気付かなかった。
「薬草取りか。手伝うぞ?」
「それでは、袋の中にあるのと同じ薬草を採っていただけると助かります」
「……分かった」
二人は無言で薬草を摘んだ。
袋が一杯になったところで、カーリーが言った。
「もうこれで十分です。ありがとうございました、アレス様」
「……今度から森に来るときは俺に声をかけろ。……一応、婚約者だからな」
「一応なんて……」
カーリーは何と言えば良いか分からないまま、先を歩くアレスの後について森を出た。
「アレス様」
「何だ? カーリー様?」
「また、今週末にガレシア家におじゃましてもよろしいですか?」
「……ああ、兄上も喜ぶだろうしな」
カーリーはチャーリーの笑顔を思い出し、頬を染めた。
「……それでは、気をつけて帰るように。カーリー様」
「はい、アレス様。チャーリー様にもよろしくお伝え下さいませ」
カーリーが去って行くと、アレスは呟いた。
「婚約者、か……。兄上に会いたいだけだろうが……」
アレスは何故か痛む胸に、苛立ちを覚えた。
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