ダイナマイト

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 スマホの電源を切り、後部座席に放り込む。ユーコはついでにFMトランスミッターも引っこ抜いて、「こんなものは邪道だ」と言いながらぶん投げていた。 「歌はあった方が楽しいとおもうけどなあ」 「だったら歌えばいいでしょうが!! ほら! 二人で一緒に歌おう」  流行りより少し遅れたあの曲を、二人で大声で歌いながら、アクセルを踏み込む。ちっともスピード感の無い鈍重な動きも、思い出を沢山積んでいるから重いのかな、なんて考えると愛おしく思えた。  ぐるぐるとハンドルを回して窓を開ける。それだけで汗が噴き出してくるけど、吹きさす涼風がたまらなく心地よかった。 「今回の旅が終わったらさ、次はお母さんと行ってきなよ」 「......うん、そうしてみる」  きっと、ユーコと行く旅ほど、楽しくはならないと思う。朝起きられなくて喧嘩して、忘れ物して罵り合って、渋滞の時はお互い無言でイライラして。でもそれもいいかもしれない。偶には遠回りしたり寄り道したり、でこぼこ道を行くのも、きっと悪くない。思いがけない宝物が、見つかるかもしれないから。  お母さん、私との約束覚えてるかな。ううん、覚えてなくてもいいや。思い出させてあげればいいから。この車で、お母さんの地図を持って、あの一昔前に流行った方の歌を歌おう。    きっと壁なんて、一瞬で吹き飛ばせる。
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