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あの日ラピスラズリを身につけていた姉は、辛い不妊治療にも陣痛にも、耐えて耐えて耐え抜いた末、最高の幸せと引き換えに死んだのに。
それともなに? これは私への試練?
最愛の姉の死を、とっとと乗り越えろとでもいうの?
「ふざけんな……」
額に手を当ててうなだれる。
こんなことになるのなら、ワガママを押し切ってでもやってもらっておくんだった。チャンスは、何度だってあったのに。
「ふざけんな……!」
奪われた。
ピアスをあける。
たった、たったそれだけ。
あの日交わした、十年越しのちっぽけな約束は、やっとの思いでこの世に生を受けた新しい命の代償として、あっけなく奪われた。
***
突然の絶望から、二年。長かったような、短かったような。
「さ、ごはん食べにいこうか」
私は切り替えるように言って、甥っ子を床におろす。
「うんっ」
彼の元気な返事を聞き届け、手をつないで出入り口のほうへ歩きだそうとしたとき、
「ユウ、ここにいたのか。すぐどっかいっちゃうんだから」
背後から聞き慣れた声がして、ふたりそろって振り返る。
「パパ」
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