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待ち合わせの店へ向かう前に実家まで顔を出した姉を認めるなり、耳たぶを指さして叫んだ私に、
「あら、やっぱりバレちゃった」
姉は茶目っ気のある口調でそう言って、玄関を上がった。
「ねぇ、なになにー?」
もっとよく見せろと飛び跳ねてせがむと、右耳を私のほうへ向けてその場にしゃがみ込んでくれる。
興味津々で顔を近づければ、姉の白くてやわらかそうな耳たぶには、銀色の立爪で固定された深い青の球体がふたつ、縦に並んでいた。
球体には金色の斑点が散らばっていて、小さな星空みたいに見える。
「ラピスラズリのピアスよ」
ピアスは知ってる。お母さんがときどきしてるから。たしか、イヤリングと違って、耳たぶに穴をあけないとつけられないんだっけ?
姉の一言に、幼い私はそんなことを思った。
でも、
「ラピ……?」
こっちは初耳だ。
小首をかしげて繰り返すと、姉はくすっと笑って答えた。
「ラピスラズリ。幸せをくれる石なの」
幸せをくれる石。
今まで体に穴をあけるなんて怖いと思っていたけれど、姉がつけているそれは、なんだかとっても素敵に見えて。
「おねえちゃん、わたしもピアスあけたい!」
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