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卒業式なんてすっぽかしたいくらい。だけど、そんなことをしたって、今のご時世ばかりは付き添えるわけでもない。
上の空で朝のホームルームを終え、他のクラスメイトたちに混じって体育館へ向かおうと席を立った、そのとき。
出入り口の引き戸が少し開いて、教頭先生が顔を覗かせた。
「涼音さん、ちょっと」
私を呼んで、手招きする。
頭の後ろでひとつに結った髪が乱れていて、眼鏡の奥の瞳がひどく焦って見えて、嫌な予感がした。
ざわつく胸を押さえながら、廊下へ出る。
「落ち着いて聞いてね。お姉さんが――」
――お姉ちゃんが、死んだ……?
信じられない。リビングの祭壇に、目の前に、遺影とお骨がある今でも、遺影の中で笑う人が、姉とうまく結びつかなくて。
後から聞いた話によれば、姉はお産の後、子宮からの出血がひどくて大きな病院に移り手術を受けたが、術後もうまく出血が止まらずナントカカントカ。
当然、ここでも新型ウイルスの影響があって、処置が少し遅れたせいもあるかも、と。
ってこれ、誰に聞いた話だっけ?
お義兄さん? お医者さん?
まぁ、そんなことはどうだっていい。
要するに、赤ちゃんは無事に産まれたけど、お姉ちゃんは死んだってこと。
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