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「大丈夫? 学校に行って保健室の先生呼んでこようか? それともおんぶして」
怪我をさせたら兄の責任だ。何でそんな危険な遊びをしたの、妹にやらせたの。母さんにも先生にも言われる。頭の中をいろんな考えが駆け巡って、顔の血の気が引いていくのを感じる。そんな考えをよそに、朱莉がこらえるようにくすくすと笑ってる。あれ? 痛くないのか? どういうことだ?
「っていうのは嘘ー、何でもないよー」
にこっと楽しそうな朱莉の笑顔が真夏の太陽のように眩しかった。短いポニーテールが揺れた。
「おま……」
心配したじゃないか!
朱莉はその場からウサギのように逃げ出していった。
「お前ー!」
余裕そうに追いかけられるのを待っている。
ジャングルジムの周りを追いかけっこ。キャッキャと明るい声で笑いながら走る朱莉と俺。両親が仕事で忙しい日は決まってこうやって遊んでいた。
子どもの頃も、つい最近までの朱莉も、いつもと同じ笑顔で笑っていると思っていた。そしてそれからもずっと笑っていると思っていた。物心ついた時からずっとそばにいたからだろうか。俺は妹が当たり前にいすぎて、何も気づいていなかったし、そもそも気づこうとさえしなかった。結果的に俺は大切な人を一人失い、家族からも奪ってしまったんだ。
今思えば、朱莉の様子が変だなと思ったのは、俺が高校三年の夏過ぎかもしれない。大学の受験勉強に必死だった俺は、夏休みが受験勉強の天王山と言われ毎日勉強で疲れていた。眠気も惜しんで夜遅くまで勉強した。おまけに部活もやめて好きなこともやめて、自分でもわかるほど、ストレスが溜まっていた。心も体も限界の状態は長く続いていた。
一方その頃、俺より頭が良かった朱莉は俺とは別の高校に通っていた。その学校は吹奏楽が強い学校で、中学生の部活でも吹奏楽をやっていた朱莉はその学校に入れて飛び跳ねて喜んでいた。そう、確かに喜んでいたのだ、でも今思えば夏くらいから笑顔が減ってきたかもしれない。
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