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ある時、朱莉は俺にボソリとつぶやいた。俺が夜遅くまで学校で勉強して帰ってきて、夕飯を食べている最中のことだ。疲れているから、母さん含め誰の声も聞きたくないとさえ思っている時だった。
「お兄ちゃんって、高校の部活楽しかった?」
部活なんて、勉強で疲れている俺にとって今すぐ行きたい場所なのに。俺は高校時代バスケ部だった。厳しい練習に耐えてはレギュラー入りし、県大会にも行った。俺にとって部活はただ楽しかった記憶だけでなく、先輩後輩同級生どれをとっても最高の仲間に恵まれた高校時代の宝物だった。
「最高だったよ」
ぶっきらぼうに答えた。思い出して、またバスケをしたくなったからだ。ダメだと自分を押し殺す。受験でピリピリしている今、そんなこと思い出させるなよ。そしてもう一つ、朱莉がなぜそんなことを急に聞いてくるのか、全くわからなかった。理解するのにも答えるのにも考えさせられる質問は、疲れているからしないで欲しかった。
「そっか」
朱莉は短く答えた。
「部活とクラスの人が一緒でも、仲が良ければ楽しいだろうね」
正直何を言っているのかわからない。
朱莉の言葉がそれ以降聞こえてこない。なのに食卓に居続け、俺のそばから離れようとない。
俺は何も聞き返さなかった。話をしてほしいような様子なのはわかったけれど、俺は黙々と夕飯を食べ続け、話しかけるなと思っていた。朱莉はいつもそうだ。何かを相談する時俺にだけ伝えてくる。母さんでも父さんでもない。遊ぶ時もからかってくる時に加え、いつの間にか相談する時も涙を見せる時も、俺だった。
誰もが認める兄っ子だった。依存しているとさえ言ってもいい。
そろそろ兄離れしろ。俺だって暇じゃないんだ。
しばらく沈黙の時間が続くと「おやすみ」と言って朱莉は自分の部屋に行った。それから妹が変な質問をしてきたことはなかった。
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