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何も言い返す言葉がなくなったのだろう。よくわからないことを朱莉は言った。
「お兄ちゃんって、変わったよね。昔はあんなに仲良かったのに、どうして今は冷たいの? 二人しかいない兄妹じゃん」
冷たいって?
「何言ってんの? 言っていることがよくわかんねえ」
俺は朱莉に兄離れしてほしいだけだ。そうしないと今後生きていけないぞ。いつまでも兄がそばにいるわけじゃないんだから。朱莉はいつまで俺の後ろをついて歩く気なんだ?
「とにかく私、高校でね」
続けようとした朱莉の言葉を断ち切った。
「悩みがあるなら自分で考えろ。お前もう高校生だろ」
朱莉はその先何も言わなかった。
「……わかった」
悲しそうで寂しそうな黒い瞳を俺は確かに見たが、無視した。
朱莉はそれ以来俺に暗い顔で何かを言ってくることは無くなった。むしろ明るくまた笑うようになった。悩み事を打ち明けることは無くなった。悩みが解決したのなら、それはそれはいいことだ。朱莉は自分で考えて解決したんだ。ついに兄離れができた。当時の俺はてっきりそう思っていた。
しかし今思えば、朱莉が浮かべる笑顔は、子どもの頃の時に見た花が咲くような笑みではなかったのかもしれない。かなり引き攣っていたのかもしれない。母さんや父さんに心配かけまいとする顔によく似ていたのかもしれない。
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