34人が本棚に入れています
本棚に追加
秋から冬に変わる頃だろうか、俺はある噂を聞いていた。
初冬にも関わらず雪が降った日だった。大学から家に帰るとき、いつもは自転車をこいで家に帰るところを、その日は雪に足を取られかねなかったので歩いて帰っていた。歩道脇の自販機の前に差し掛かったところで、女子高生二人が笑いながら話し合っているのが聞こえた。俺が女子高生に目がいったのも、二人が着ていた制服が朱莉が通っている学校と同じものだったから。そしてもう一つ、朱莉と同じ吹奏楽部の生徒だろうとわかったからだ。いかにも重たそうな楽器ケースを雪の上に置いていたのだった。
自販機の前で、湯気が見えるくらい温かい飲み物をすすっている。横目にしながらその二人を通り越そうとした時だ。朱莉と同じ制服の女子高生の話がチラッと聞こえた。
「ねえ、堀越さんってやばくない?」
その声を聞いた時、思わず俺はピタリと立ち止まってしまった。
堀越?
朱莉と同じ制服。同じ吹奏楽部。堀越と聞いて朱莉のことが頭をよぎった。その後で、まさか朱莉のことではないだろう考えた。いくら何でも決めつけるのが早すぎだ。
「みんなが嫌ってるのがわからないのかな? 早く辞めちゃえばいいのに」
「そっちの方がみんな幸せだよね。不穏な感じが合奏にも影響出てるしさ、息が合ってないから音がずれてる。このままじゃ来年の大会に響いちゃうよ」
俺の足はとまったままだった。はっと我に帰って、動き出す。歩道のわきに自転車を止め、わざと自転車のタイヤを触り出した。まるでパンクしたかのように装って、耳だけは女子高生に集中させる。自分は何をしているんだろうと、少し恥ずかしくなった。それでもいいから話の続きが聞きたいと思うだけだった。
「え? まさか、あんた解決しようとしてるの? あの修羅場の中に入っていくっていうの? いくら今は相手の意地悪がひどくなってきたからって、結局元々はあの子が悪いんでしょ?」
「私が解決? そんなわけないじゃん、ほとんど関係ないし。やるなら部長の仕事でしょ。ま、部長もかわいそうか。堀越さんの自業自得だよね」
相手の女子高生は安心したように笑った。高い声で笑う様子はどこか楽しげだった。
「それなら良かった。あたしも原因を作った張本人を助ける気はないかな。まあ、とばっちりを受けていじめられたくないしね」
「えー、ひどーい」
そう言いつつ声は笑っていた。
「まあ、私も始めは『朱莉ちゃん』とは仲良くしてたけど、なんか合わないなって思って離れたよ。あの子って、グループを乱すタイプの不思議ちゃんだよね」
朱莉? 今、朱莉って言った。
最初のコメントを投稿しよう!