二人しかいない兄妹

9/11
前へ
/61ページ
次へ
「そうか? まあお兄さんが言うなら」 「でもさいじめって大抵いじめられる側に問題があることが多いんだ。妹のを見ているとそう思う。妹って人間関係につまずくことなんて今までに何回もあったし、大体俺の妹、俺を頼りすぎて自分の頭で考えないから、いい機会だよ。苦しむだけ苦しんだら、あいつも何か学ぶでしょ」  服部は何かを言いかけようと息をした。その時、電話の向こうで服部を呼ぶ声がした。服部は「おう、ちょっと待って! 電話中!」と応じていた。ボウリングの順番が回ってきたかもしれない。 「弘樹、話の途中で悪いんだけど、今遊んでてな。また明日詳しく聞かせてくれよ」  服部は悩み相談を中断させるときのような、申し訳なさそうな声で言っていた。 「いやいや、いいよ。家族のことだから。引き止めて悪かったな、楽しんでこいよ。ボウリングまた誘ってくれよな」 「おう、じゃあな」  電話を切った時、扉の向こうで物音が聞こえたのがわかった。まさか、電話の会話を聞いていたのか? 誰か帰ってきていた? 誰が聞いている? 俺は部屋の扉を開け放った。扉の向こうで朱莉が俺の部屋の扉の前に小さくなっていた。 「おかえり。お前まさか」  朱莉は下を向いていた。返事はなかった。  服部との電話を聞き耳立てていたのか? 扉に聞き耳を立ててまで人の話を聞くようなやつだからいじめられるんじゃないのか?  それを問い正そうとした途端、朱莉は俺に背中を向けた。そして隣にある自分の部屋に入りガタンと音を立てて扉を閉めて閉じこもってしまった。  今思えばそれっきり面と向かって話したこともない。朱莉の声を聞いていない。ご飯の時も夕飯は食卓に姿を見せず、誰もが夜中に寝静まった頃にインスタントラーメンを啜る音しかしなくなった。学校には行っていないようだった。母さんも父さんも異変には気づいていて朱莉から何かを聞き出そうとしても、朱莉はなおも話そうとしなかった。いつも俺を頼っていたが俺には話そうとしなかった。あいつが例の件を起こすまでの約二ヶ月間、家族の中で朱莉の顔を見た人はいたのだろうかと疑問だ。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加