二人しかいない兄妹

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 母さんから「朱莉は何かあったの? いつも弘樹に悩みを打ち明けるじゃない」と聞かれたが「放っておけば直るだろ、反抗期じゃねえの」と適当に返していた。その時の俺も、いじめみたいなガキのやることに悩んでで親には反抗するなんて、朱莉は本当に子供っぽいとさえ考えていた。そろそろ兄から卒業してくれ、離れたのは良い機会だ、と思っていた。  しばらく朱莉の顔も見なくなったし声も聞かなくなった。今何やっているのかも知らない。そんな中で一日だけ、朱莉が家を出たことがあった。例の日だ。起ってはいけないことが起きた日だ。  一月の雪が降り頻る頃だった。父さんも母さんも仕事の土日。俺の学校が休みで昼ごろまで寝ている時だった。玄関から出ていく音で目が覚めた俺は、窓の外を見て朱莉が歩いていることを確認した。たまには出かけたくなったのだろう。  俺はその日服部を含むサークルのメンバーと飲み会の予定があった。午後五時頃に出発して六時からだ。楽しみだった。まだお酒は飲めないけれど、居酒屋の雰囲気が大人になった気分を味わえて好きだった。  夕飯は一人になるから今の朱莉は自分で作れるのか聞きたかったけど、夕方になっても朱莉は帰ってくる気配はなかった。待ち合わせの時間に近くなってきた頃、夕飯の準備なら自分でしろと思い何も用意せずに家を出た。  朱莉の動きがあったのは飲み会の時だった。  ズボンに入れていたスマホにいつの間にか着信が入っていたのだった。その一分後に一通のメールが届いていたことにも気がついた。  文面はこうだった。 『お兄ちゃん、助けて。もう耐えられない』  何がだよ、どこにいるんだよ。それに、今俺取り込み中だ。サークルの先輩がスマホを見て止まっている俺を見ている。それに気がついて、適当に文面を打った。 『今飲み会の途中。用件あるなら今度にして』  送信マークを押して、完了。  これで朱莉も待ってくれるだろ。お前とはまた夜でも明日でも会えるだろ。家で何時間も会えるだろ。いつでも話せるだろ。俺はそう思っていた。  しばらくしてスマホが振動した。楽しくやっているところを邪魔されたような気がして開く気もなくロック画面の通知だけでみる。今度は誰からだよと思ってスマホを見たら、朱莉だった。またかよ。呆れたようにため息をついた。  そこにはこう書いてあった。 『お兄ちゃんって偽善者だね』
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