赦し

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「堀越くんって、優しい人なんだなーって思った。だから、今『いいことしてる』って言ったんだよ」 「できてるかは、自己満足みたいなものだけど」  そうだ、相手がどう思っているのか分からず、とりあえず自分がいいと判断したことをしている。結局自己満足だ。 「さっきはごめん」  続けて北野はポツリと言った。 「何も知らずに偽善者だなんて言ってごめん」 「いや、何て言われようと俺は昔の俺から変われないんだ。いいことしたって所詮自己満足。でも、それでも償い続けないと」 「償い……それは善者がやることだと思うよ」  償いという俺の言葉を拾い上げられた。 「え?」 「偽がつくような善者がやることじゃない。それは本物の善者だよ」  勝手に俺の顔が上がる。その先に見えた北野の顔を見て驚いた。北野明里が……泣きながら微笑みかけている。いつからだ。 「堀越くんは優しいんだね」  嘘偽りのない、素直な涙だ。綺麗な涙だ。俺の話を聞いて泣いて優しい表現する。 「俺が優しいって?」  優しいのはそう言ってくれる北野のほうだよ。偽善者と呼んだこともあったけど、違う。こういう人を本物の善者というんだ。 「償いをしている時から、もう君は善者になっているんだよ。本当にタチの悪い偽善者はそんなことしないよ」 「まあ、そうかもな……でも」 「自信なさそっ」  ふいに北野は立ち上がった。その動きにはもう力が戻っていた。俺の力は一向に戻ってこない。立つ気力さえなかった。 「ねえ」  俺の目の前に北野の手がある。柔らかそうな細く長い指と小さな手のひらは、一瞬、朱莉の手かと脳が勘違いした。その手を握って子どものころ妹の手をひいた記憶を思い出す。 「立ちなよ。ベンチに座って、もうちょっと話そ」  力のない俺はその手に応じるしかなかった。  ようやく立ち上がった身体は鉛のように重かった。体が動くのを拒否しているようだ。支えられるように、手を引く北野は俺をベンチに座らせてくれた。
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