34人が本棚に入れています
本棚に追加
「堀越くんって、優しい人なんだなーって思った。だから、今『いいことしてる』って言ったんだよ」
「できてるかは、自己満足みたいなものだけど」
そうだ、相手がどう思っているのか分からず、とりあえず自分がいいと判断したことをしている。結局自己満足だ。
「さっきはごめん」
続けて北野はポツリと言った。
「何も知らずに偽善者だなんて言ってごめん」
「いや、何て言われようと俺は昔の俺から変われないんだ。いいことしたって所詮自己満足。でも、それでも償い続けないと」
「償い……それは善者がやることだと思うよ」
償いという俺の言葉を拾い上げられた。
「え?」
「偽がつくような善者がやることじゃない。それは本物の善者だよ」
勝手に俺の顔が上がる。その先に見えた北野の顔を見て驚いた。北野明里が……泣きながら微笑みかけている。いつからだ。
「堀越くんは優しいんだね」
嘘偽りのない、素直な涙だ。綺麗な涙だ。俺の話を聞いて泣いて優しい表現する。
「俺が優しいって?」
優しいのはそう言ってくれる北野のほうだよ。偽善者と呼んだこともあったけど、違う。こういう人を本物の善者というんだ。
「償いをしている時から、もう君は善者になっているんだよ。本当にタチの悪い偽善者はそんなことしないよ」
「まあ、そうかもな……でも」
「自信なさそっ」
ふいに北野は立ち上がった。その動きにはもう力が戻っていた。俺の力は一向に戻ってこない。立つ気力さえなかった。
「ねえ」
俺の目の前に北野の手がある。柔らかそうな細く長い指と小さな手のひらは、一瞬、朱莉の手かと脳が勘違いした。その手を握って子どものころ妹の手をひいた記憶を思い出す。
「立ちなよ。ベンチに座って、もうちょっと話そ」
力のない俺はその手に応じるしかなかった。
ようやく立ち上がった身体は鉛のように重かった。体が動くのを拒否しているようだ。支えられるように、手を引く北野は俺をベンチに座らせてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!