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 不意にパソコンのアラームが鳴る。データ収集の時間だとリマインダーが叫んでいた。切り替えるべく、皿の洗浄を第一タスクに差し込む。欠けを避けて皿を掴み、立ち上がった。 「ただいま帰りました」  だが、不意打ちの挨拶により皿が逃げ出す。粉々になった陶器を、約十秒ほど二人して眺めた。 「……大惨事ですね」 「……急だったから驚いたみたいだよ、皿が……」 「そうですか……」  美佳は持っていた荷物を壁に預ける。素早く部屋を出たかと思うと、掃除道具を手に戻ってきた。箒と塵取り、ゴミ袋と軍手が揃っている。 「あ、僕やるよ」  軍手を奪おうとして、反対側に引っ込められた。有無を言わさず、美佳は破片を回収しはじめる。第一に目視できるものを、それからプランターに侵入した欠片を摘まみはじめた。  懸命な姿を前に、急に酷く情けなくなる。こんな調子ではいけないと、頬を思いっきり両手で挟んだ。それから、後に続いて回収を始める。  特に会話するでもなく、黙々と清掃に励んだ。最終的にはプランターを大きくずらし付近も丁寧に掃除した。  ぽっかりと空いた空間に、研究室の新設当時を思い出す。あの頃は、すぐに約束を果たせると思っていた。けれど今は。 「久しぶりに会ったのですが、父も母も喜んでました」 「あっ、本当? それは良かった」  珍しく自主的に語り始めた美佳は、移動したプランターの小さな芽を見つめている。 「会って早々二人が始めるんです。私のトマト好きの話を。夏場は毎日食卓に出ていたのですが、たくさんあるのに誰にも譲らないくらいの勢いで食べていた、と。全滅した時の塞ぎようは恐ろしかったとも言っていました。あ、父は季節ごとに違う野菜を作る人だったのですが、トマトは特に格別で」 「そっか、そうだったんだ」  幼い姿を想像し、自然と笑いが込み上げた。彼女にとって、トマトは人生の一部だったのだ。僕のピーマンと同じように。  奥深くに押しやられていた記憶が顔を出す。ピーマンとの戦いを始めた僕は、敵を知るべく多くの本を読み漁った。克服エピソードや思い出を聞いて回ったり、考案したレシピで母と一緒に料理したり。  そうして敗北を繰り返し、悔しがりながらもピーマンにのめり込んでいった。あの頃は楽しかった。苦い思い出として蓋する結果にはなったが、楽しかった。笑顔の咲き乱れる世界は、どこよりも心地よかった。 「爽太先生はなぜピーマンなのですか」 「えっ」
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