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 回答済みである問いに、意図を探してしまう。克服では答えとして矛盾があっただろうかと、脳内で深堀りが始まった。 「いえ、ただ嫌いな食べ物にここまで執着するのは、何か特別な出来事があったからなのではと思いまして。それだけです。特に深い意味はないので答えなくてもいいです」  だが潜り込む前に付け足され、追及はあっさり幕を閉じた。母との約束が喉で燻る。息を潜めていた罪悪感が、ゆっくりと波打ち始めた。  だが、問いをはね除けようとは思わなかった。美佳の中に、同じ形のピースを見たからだろうか。  言葉に置き換えたことのなかった動機を、ゆっくりと変換して行く。 「……実は、ピーマンを大好きになることはね、亡くなった母との約束なんだ。って言っても僕が勝手に取り付けたやつなんだけど。ある日母がね、(きら)って全く食べない僕に、好きになってくれたら嬉しくて泣いてしまうかもと言ったんだ。それを聞いて喜ばせたくなったんだと思う。勢いで約束して、その日からずーっとピーマンピーマンって。大嫌いなくせに挑み続けていたよ」  こうして口にすると、なんて幼稚な発端なのだろうか。幼かった自分に対し、思わず苦笑した。 「まぁそれは序章みたいなもので。母が亡くなったとき、僕は約束が守れなかったせいだと自分を責めたんだ。もちろん、今はそうじゃないと分かるよ。でも、その時の僕は、絶対に約束を果たさなきゃいけないと思った。積み上げてきた努力を、泡にしたくないってのもあったかもしれないけどね。と言うか、今はそっちの方が大きいかも」  けれど、あの頃は、心の底から思っていたんだよな。  約束を果たした先、母が戻らないことも、笑顔が見られないことも分かっていた。けれど、やめられなかった。 「まぁ、結局今も果たせないままなんだけどね」  恐らく、他者の耳には馬鹿らしい理由としてインプットされるだろう。しかし、自ら貶めはできなかった。  話を噛み砕いているのだろうか。美佳は静寂を場に提供する。変化のない横顔で閉口され、動揺が零れ落ちそうになった。 「そうですか」  しかし、ギリギリのところで返事され、なんとか持ち直す。ここでやっと、脳に隙間が生まれた。 「うん、まっさか大好きになる前に現物がなくなるなんて思わなかったよー」  場を和ませる目的で、冗談っぽく笑ってみる。深くにあったものを、引っ張りだしたせいで心が騒いだ。  想像していた通り、美佳は同じ顔にならない。しかし、伏せられた視線が、会話の継続を察知させた。 「私、思ったのですが……」  ――ほら。初めて耳にする他者の意見に、隠れて怯える。何を言われようと流せる自信はあるが、傷付かない自信はなかった。どれだけ下らなかろうが、これこそが人生を突き動かしてきた動力なのだから。
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