桜の誓い

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 綺麗に手入れされた庭園に立っていると、ついさっきまでのことが夢か幻のように思えてくる。  でも、薫ちゃんと四郎くんと私の口から同時にため息が零れたから、あの不思議な体験は現実のものだったのだろう。 「あたしたちがここに戻ってこられたってことは、一人残らず成仏させられたってことよね。良かった」  ホッとしたように微笑んだ薫ちゃんに大きく頷いた。 「あれだけの数の霊体がいたのに、悪霊が一つもいなかったなんて奇跡だよ。僕の出番はなかったな」  肩を竦めた四郎くんは霊を一つ二つと数えるらしい。  そういうところにも薫ちゃんや私との考え方の違いが表れているように感じてしまう。 「さ、叔母さんが心配してるわよ。早く家に帰りましょ」 「そうだね」  薫ちゃんと並んで歩き出そうとした私は、クイッと四郎くんに袖を引かれて耳打ちされた。 「なんか僕、優ちゃんの好きな人わかっちゃったかも。僕で良ければいつでも相談に乗るよ?」 「え……」  ヤダ。私が薫ちゃんのこと好きだって、そんなにバレバレだった?  言葉を失って急に火照りだした頬を両手で包んだら、今度は薫ちゃんに肩を抱き寄せられた。 「ちょっと! なにコソコソ話してるのよ! あんたとの縁談なんて、優は最初から断るつもりだったんだからね!」 「わかってたんなら、なんで薫ちゃん、カリカリしてたの? そんな格好までして」  ウェイトレス姿、似合いすぎて怖いんだけど! 「それは、その……優のことが心配だからに決まってるでしょ!」  薫ちゃんは何かを誤魔化すみたいに明後日の方を向いた。 「ふーん、そういうこと? あんたも面倒くさい男だね」  四郎くんが呆れたみたいに溢した言葉の意味が私にはよくわからなかったけど、薫ちゃんは案の定「だから言い方!」とプリプリした。 「四郎くんとの婚約はお断りさせてもらうけど、また何かあったらこうやって協力し合おうよ。それが二宮と辻堂の仲を修復していくことになるんじゃないかな?」  私がそう言うと、四郎くんは「ロミオとジュリエットになり損ねたのは残念だけど、ま、優ちゃんが他に好きな人がいるって言うんだから仕方ないよね」とニッコリ笑った。  ちょっと! いきなりどうしてバラしちゃうのよ!? しかも、当の薫ちゃんの前で!  私が一人アワアワしていると、薫ちゃんはニヤリと口角を上げて「そういうこと。じゃあね」と四郎くんにヒラヒラと手を振った。  ……まさか、薫ちゃんにもとっくにバレてた? 私の気持ち……。  どうしよう。これからどんな顔して薫ちゃんと話せばいいんだろう。  こんなとき霊が助けを求めにきてくれたらいいのに!  霊を寄せ付けない薫ちゃんの側にいる限り、そんなことは起きるはずがないのに、私は白玉荘の庭をキョロキョロと目を泳がせながら歩いていったのだった。 END  
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