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霊の気配はするのに、視えるはずの四郎くんも私も霊の姿を視ることができない。
そして、この村の人々は妙に実体感がない。
隣のテーブルのカップルは堂々巡りの別れ話をしながらも、声を荒げるでもなく涙を流すわけでもなく無表情でお蕎麦を啜っていた。
無味無臭の食べ物を平然と食べているのも変だった。もっと怒ったり驚いたりしてもいいのに。
まるで無限ループの中で、いつもの日常を繰り返しているみたいだ。
「ここがどこかはわからないままだけど、あの男性の霊が言っていた通り、この村が変だってことはよくわかったね」
私がため息まじりに言うと、四郎くんは「え!?」と驚いたような声を上げて足を止めた。
「あの男の霊は何て言ってたの?」
「『俺の故郷が変なんだ』って。……私が会話してたの聞いてたでしょ?」
戸惑いながら尋ねると、「僕は優ちゃんの声しか聞こえなかったんだ」と言う。
どういうことだろう? 元々、四郎くんは霊の声が聞こえないというならいいけど、いつもは聞こえるのにあの時だけ聞こえなかったというのなら、ますますわけがわからない。
「四郎くんはいつもは霊の声が聞こえる人?」
「聞こえるって言うより、何を伝えたいのかわかるって程度。優ちゃんは会話できるんだ? 凄いな」
「私も聞こえるようになったのって、つい最近だよ」
夏休み前までは霊の声が聞こえなかったから、意思の疎通を図るのが大変だった。
それがどういうきっかけか、突然会話できるようになった。
今、辻堂家でも霊と会話できるのは私だけだ。
薫ちゃんのお母さんは生前、会話できるだけじゃなく霊を自分に憑依させることができたから一族最強と言われているけど、私にはまだそこまでの力はない。
「なるほど。あの男は白玉荘に居ついた地縛霊で、故郷を救いたくて優ちゃんに引き寄せられたってところか」
「そうなのかな? じゃあ、何としても助けてあげなきゃね!」
私がガッツポーズをとると、四郎くんは珍しい物を見るような目を向けてきた。
「霊を助けてあげる前に自分たちを何とかしないと。この状況、わかってる? 僕たち、永遠にこの村から出られないかもしれないんだよ?」
「だからこそだよ! この村の人たちはみんな死んでる。なのに、自分たちが死んだことに気づいていないから、成仏できないでここに留まっているんだと思う」
私が自分の考えを力説すると、四郎くんは虚を突かれたようにポカンと口を開けた。
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