視えない場所

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 四郎くんはあまりにも予想外のことを聞かされて、つい素が出てしまったのだろう。やけにあどけなく見えた。  本当にこの人が悪霊を地獄に追い払うとか、霊を操るとか、美しいけど勇猛果敢だった陵王に例えられる男性なのだろうか。  いつも年上の薫ちゃんと一緒にいるせいか、私には四郎くんが頼りなく思えてしまう。 「死んだことに気づいていない? だから、普通の人間みたいに見えるってことか!」 「たぶんね。私たちがこの村から脱出するためには、ここにいる全員を成仏させてあげるしかないと思うんだ」 「全員って……」  四郎くんは辺りをグルッと見回して、二の句が継げないでいる。 「どうやって全員を成仏させる? っていうか、本当に優ちゃんの言うようにここの人たちはみんな死人なのかな? 生者と見分けがつかないじゃないか」 「確かに」  私たちみたいに生きているのに迷い込んでしまった人がいないとは言い切れない。  霊を霊として認識できないって、結構厄介だ。  それでも生者と同じように見えるだけマシなのかもしれない。  薫ちゃんは"視えない人"だけど、霊の存在を感じることができる。  それって、さっき霧の中で私がゾクゾクしていたあの感覚をしょっちゅう感じているってことだよね? 「薫ちゃんは大変なんだな」   私が独り()ちると、四郎くんが「薫ちゃん? ああ、優ちゃんがコンビを組んでるお姉さんだね?」と物知り顔で頷くから吹き出しそうになった。  どうやら二宮家では、辻堂本家の一人息子である薫ちゃんのことさえ正確に把握していないようだ。  薫ちゃんは私の姉じゃなく従兄だし、辻堂家の男子にしては珍しく病弱じゃなくて霊能力も少しあるから、いささか微妙な立場なのだ。  辻堂家は女系一族ではあるものの、当主を継ぐのは本家の血筋と決まっている。  今は一葉ばあちゃんが当主だけど、次期当主は薫ちゃんか、うちのお母さんと(もく)されている。  うちのお母さんは次女だけど、姉である薫ちゃんのお母さんが女の子を産まなかったから婿を取って私を産んだ。  視えない薫ちゃんを跡継ぎに指名するかどうかは、一葉ばあちゃんの胸三寸で決まるらしい。  でも、たとえ指名されても、薫ちゃんは辞退するような気がする。  視えないことにコンプレックスを感じているみたいだから。
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